著者:糸川昌成
(東京都医学総合研究所・都立松沢病院)
心の脳
30年以上も前のことです。脳の研究を始めたばかりだった私は、心は脳の状態で説明できるのではないかと考えていました。
たとえば、リスパダール(抗精神病剤)をのむと幻聴がやわらぐとします。
リスパダールは脳のドーパミン(神経伝達物質)をおさえる薬なので、ドーパミンが働きすぎるから幻聴が起きるのだろうと。
SSRI(抗うつ薬)をのむと憂うつな気分が軽くなる。
SSRIは脳のセロトニン(神経伝達物質)を増やす薬なので、セロトニンが減るから憂うつになるんだろうと。
そうやって、イライラはノルアドレナリン、
不安はGABA(ギャバ:γ-アミノ酪酸)、
記憶力はアセチルコリンといった具合に、心は脳で説明し尽くせると思ったのです。
脳以外の心
ところが何年か研究をしているうちに、あることに気づきました。