あきらめないで! 障害年金(専門職)


「こころの元気+」2015年5月号(99号)特集5より (「こころの元気+」バックナンバーからの転載ですので、掲載時の情報であることにご注意下さい)→『こころの元気+』とは


あきらめないで! 障害年金
特定社会保険労務士 井坂武史


障害年金は国の生活保障

精神障害は病気が原因で働けないことがよくあります。
たとえば、心臓にペースメーカーを入れて働いている人も、人工関節を入れて働いている人もたくさんいます。
しかしながら、精神障害は病気の特性上、働きたくても働けない、働くことを禁止されている、あるいは働ける適切な職場がない人がたくさんいるのが現状です。
働かなければ収入を得られず、病院代や生活費をまかなうことができずに経済的にたいへんな状況に追いこまれます。

そのような人のために、国による代表的な社会保障の制度として障害年金があります。
障害年金は、要件に該当すればすべての国民が受けられる制度です。
しかし、要件に該当すれば障害年金は受けられるのに、障害年金を受けられない人が存在します。
障害年金という制度があること自体知らなかった人、障害者であることを受け入れるのに抵抗があり、障害年金という制度は知っていても障害年金を申請しなかった人もいます。
障害年金の手続きが煩雑で途中であきらめた人や障害年金の申請をしたけれど、不支給であきらめた人もいるでしょう。

認定には地域差がある

障害基礎年金では、都道府県によって審査にばらつきがあることが新聞報道でも発表されています。
最も認定がきびしい県は大分県で、2010~2012年度の3年間平均の不支給率は24.4%、茨城県23.2%、佐賀県22.9%、兵庫県22.4%と続きます。
一方、不支給率が低い県は、栃木県で4.0%、新潟県5.2%、宮城県5.7%、長野県5.8%と続きます。
このように、同じ程度の診断書なのに、住んでいる地域によって障害年金を受けられる人と受けられない人がいるのです。

最も大切なのは初診日の証明

障害年金は手続きが非常に煩雑で、初診日を見つけ、その時点で年金の保険料をきちんと納めていたかを確認し、主治医に診断書を書いてもらい、必要書類をそろえて提出することになりますが、障害者がこれらの煩雑な手続きをご自身で行わなくてはなりません。

障害年金の手続きで最も大切なのは初診日の証明です。
初診日とは「初めて医師または歯科医師に診てもらった日」のことをいい、確定診断を受けた日でもなければ、初めて精神科を受診した日でもありません。
精神科を受診する前に内科で不調を訴えていた場合は、内科が初診日になります。

そして、初診日の証明で最も苦労するのは、カルテの保存期間が5年と定められているため、初診日の証明ができずに不支給となる事例で、数多くあるのです。
私が新聞記者からゆずっていただいた資料によると、平成22年度で「初診日が確認できない」との理由で不支給となった数は全国で777件と報告されています。

都道府県によって認定にばらつきがあることは本人に責任はありません。
また、初診日の証明ができないことも、そもそもはカルテの保存期間が5年と定められていることが原因であり、こちらも本人に責任はありません。
注:2015年10月1日からは、初診日を確認する方法が広がります

障害年金の決定は理不尽なことが非常に多いのです。
このような決定に対して最後まであきらめないでください。

専門家に相談するクセをつけよう

年金事務所や市役所の窓口は、障害年金がもらえる方法を教えてくれるわけではありません。
窓口で言われたとおりに手続きしたけれど、不支給になることはあります。

そのようなときは、あなたのために障害年金の手続きを手伝ってくれる人がいます。
病院内にはPSW(精神保健福祉士)がいると思いますので、まずはPSWに相談するとよいでしょう。

PSWに相談してもわからない場合は、年金法の専門家である社会保険労務士(以下、社労士)に相談されるとよいでしょう。
もちろんどんな社労士にもいえることですが、すべての依頼者に障害年金を届けることは約束できません。
しかしながら、依頼者のために最後まであきらめずにつきあってくれる社労士と契約するとよいでしょう。

窓口で「あなたの場合は障害年金はもらえない」と言われて障害年金をあきらめた人。
デイケアや通院仲間からの間違った情報を信じて障害年金をもらえない人。
インターネットの情報を鵜呑みにして障害年金がもらえないと思いこんでしまう人。
このようなことがないよう、まずは専門家に相談することです。
仲間同士で話すのではなく、障害年金の手続きを経験したことがある専門家であれば、別の提案ができるかもしれません。

たとえば、障害年金の結果に納得できなければ「不服申立」という手続きをすることができるのですが、不服申立をして障害年金が認められる程度の診断書の内容なのか、それとも、不服申立をしても障害年金が認められる可能性が低い診断書なのか、その違いについて、診断書を見慣れていない一般の人が見わけることはきわめて困難です。

よくあるのは、次のようなケースであきらめてしまうことです。

障害年金の提出をしたら不支給だった

不服申立ができると書いてあるから、不服申立をしてみた

結局処分が見直されず、障害年金は支給されなかった

自分は障害年金がもらえないとあきらめた

診断書の内容が障害等級に該当していない場合は、不服申立をせず、もう一度障害年金の申請をやり直せばよいのです。
「結果に納得できない場合は不服申立ができる」と書いてあるからといって、必ず不服申立しなければならないものではありません。


Profile
井坂武史(いさか たけし):特定社会保険労務士
昭和53年生まれ。平成22年に事務所を開設以来、障害年金を中心に業務を展開。自身の闘病経験から、依頼者の立場に立って一緒に考えることをモットーとしている。
2014年2月号まで、本誌で「わかりやすい障害年金入門」を連載。

申請のやり直し等の詳細な説明は
→『精神障害をもつ人のための わかりやすい障害年金入門~申請から更新まで~

年金制度の基本、初診日がわからない場合の手続き、不支給や等級が下がった場合の対応、等級を上げて年金額を増やす方法などを掲載しています。
これから障害年金を申請する方、すでに障害年金を受給しているけれど、更新のたび「不支給になったらどうしよう」と不安な方はお手元に置いておかれるとよいと思います。