こころの元気+ 2014年7月号(89号)
連載「いろいろ応用できる認知療法をじょうずに使ってみませんか」より
連載60回
しなやかにやり過ごすレジリエンス
大野裕
おおの・ゆたか
●国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター
特に趣味があるわけでもなく、平日は臨床をしていて、時間を見つけて原稿を書いています。
好きなことは、時間を見つけて寝ることと、家族や仲間と話をすることで、それが一番のストレス解消になっています。
レジリエンス
2014年の4月、NHKのテレビ番組『クローズアップ現代』にコメンテーターとして出演しました。
ご覧になった方もいらっしゃると思いますがレジリエンスが取り上げられました。
レジリエンスというのは、回復力とか復元力と訳されます。逆境力と訳されることもありますが、この言葉は私のまわりでは評判がよくありません。
マイナスの印象を与えるからのように思います。
レジリエンスというのは、もともとは物理学の用語で、圧力をかけられた物体がひずみながらも、もとに戻ろうとする現象を意味しています。
それが社会状況や心理状態にも使われるようになり、苦しく困難な状態になっても、もとに戻ろうとする力をレジリエンスと呼ぶようになりました。
長くチャレンジし続けるには
番組では、冒頭にけん玉を使った実験をしている場面が流されました。
なかなかうまくいかないときにがんばってチャレンジし続けることができる人の特徴を調べる実験です。
どうやら、あまり感情が表に現れすぎる人は疲れやすいようです。
失敗したときにすごくがっかりした態度をとる人や、成功したときに喜びを全身で表現するような人たちは、早めに諦めてしまっていました
一方、成功するにしても失敗するにしても、あまり感情的になりすぎない人は長くチャレンジし続けられていました。
精神的な強さを保つためには、現実を淡々と受け止められる力が必要なようです。
がんばり続けるだけでなく
私は、そのビデオを見ながら「なるほど」と納得する一方で、じょうずに諦めることも必要ではないかと思いました。
あまりがんばってチャレンジし続けるのもよくないのではないかと考えたのです。
そのことを収録直前の打ち合わせでメインキャスターの国谷裕子さんに伝えたところ、国谷さんも同じ感想を持っていらっしゃいました。
実は、クローズアップ現代のビデオは、局の担当者が主体的にビデオをつくり、それを番組の収録直前に見せてもらって、番組でどのように取り上げるかを話し合います。
基本的には生放送なのですが、今回は放送前に収録する形でした。
だからといって後で編集されることはないので、生放送と同じ緊張感で収録に望みます。
緊張しながらも収録は無事に終わり、がんばり続けることも大事だが、じょうずに諦めることもまた同じように大切だということを言うことができて一安心です。
柔軟にしなやかに
今ふり返ってみて、その時々で柔軟に対応できる臨機応変さがレジリエンスなのだろうと考えています。
レジリエンスをしなやかさと訳すこともありますが、回復力や復元力と漢字で表現するよりもしっくりする感じがします。
柳の枝のように、強い風が吹いてもしなやかにやり過ごせる力です。
それは、柔軟に考え、気づきを広げていく認知療法・認知行動療法のエッセンスでもあります。