こころの元気+ 2011年7月号特集より
特集6
病院の食事はこんな工夫をしています
大阪精神医学研究所新阿武山病院栄養給食室長
井戸由美子
病院では、さまざまなデータを元に患者さんの栄養状態をみて、入院前の食生活などを考慮し、「栄養管理計画」というものを立てます。
そして、栄養状態の低い方には栄養補給を考えた(少量で栄養価の高いものなど)食事内容になりますし、過栄養(いわゆる食べすぎ、太りすぎ、血液ドロドロ状態)の方には、ダイエットの必要があります。
その場合、体に必要なもの(いわゆるタンパク質やビタミン・ミネラル)はしっかり摂取し、エネルギー源になる炭水化物や脂質は制限するといった内容の食事になります。
しかし、そこで問題になってくるのが「買い食い」と「差し入れ」です。
一般の方には、病院のような工夫はむずかしいと思われがちですが、病院でも問題なのは「余分な飲食」なのです。
病院食をしっかり食べているのに、たとえば間食に、コーラ350ミリリットル一本(約160キロカロリー)とスナック菓子(ポテトチップ小一袋約340キロカロリー )、インスタントラーメン(一袋約450キロカロリー )などを食べられたのでは950キロカロリー のオーバーになります。
身長165㎝の方だと、一日に必要なエネルギーは1650から1850kcal (この誤差は運動量や基礎代謝の違いです)ですから、その約半分も余分にとることになり、これでは食事制限が何にもなりません。
でも入院生活で、お腹が空いて仕方がないのはとてもつらいので、当院で は、希望されればこんにゃくの粉のお米の入ったご飯に変更し、同じカロリーで一・三倍から一・五倍のご飯の量を提供します。
また、副食の野菜を大盛りにしたり、サラダの小鉢(もちろんノンオイルドレッシングで)を一品つけたり、場合によっては、果物や低カロリーゼリーなどをつけたりします。
それでも、間食をしたい患者さんには、売店で買うと一袋で売っているので食べ始めると途中でストップできず、ついつい食べ過ぎてしまうため、栄養課で一単位(80kcal )のお菓子をバラ売りしています。
たとえば、ビスコ二個、パリンコ四枚、マリー一袋(三枚)、ぽたぽた焼き一袋(二枚)、ムーンライト一袋(二枚)などが80kcal で、皆さん買いに来られて「こんな少しでこんなにカロリーあるの!」と驚かれています。
また、院内の自動販売機には、0kcal のものと、100kcal以下のものに推奨の表示をしています。
こんな風に書きますと、かなり締め付けているイメージがあるのですが、私は「栄養士は病院のお母さん」だと考えています。
自分の家族が、メタボリックシンドロームなのに、毎日の食生活に配慮しないお母さんはいないと思います。
それを、できるだけ苦痛と感じないようにする必要が、私たち栄養士にはあると思います。
それが、前述のような工夫であったりします。
その他にも、魚は絶対ダメといった患者さんなどには、お肉に変更するなど個別の対応を行っています。
さらに、オリゴ糖入りのお茶を提供することで、腸を元気にし、便秘対策や脂質の吸収を抑えています。
栄養教室を開催
また、月に一回各病棟の談話室で、誰でも聞ける栄養に関する教室を開催しています。
そのなかで栄養の話をした後、患者さんと一緒に献立を考えます。
「食べたいものは」で聴くメニューは、二から三週間後の病院メニューに採用します。
「このメニューが職員や病院の患者さん全員に出される」と思われると、「さばの塩焼き、ほうれん草のお浸し、豆腐の味噌汁、肉じゃが」などとても優等生の献立が並びます。
皆さん何を食べれば健康的なのかは、よくわかっておられるといつも痛感します。
それを退院した後も継続していただくために、家族教室などで話をさせていただいています。
当院では、「栄養管理計画書」は必ず全員に最低一か月に一回の見直しをして、栄養に関して多職種(医師・看護師・薬剤師・精神保健福祉士・管理栄養士など)で栄養サポートのチームを組み、一か月に一回各病棟単位でカンファレンスを行い、情報を共有し患者さんに一番合った栄養管理ができるようにしています。
病気を治すためには、患者さんは自分の病気のことをきちんと知ることが大切です。
それと同じく、よい食習慣のためには、栄養のことをきちんと知ることが大切なのです。
そのためには、私たち栄養士をはじめ病院のスタッフが、どのような姿勢で「栄養」というものに取り組むかのが重要だと考えています。