マンガ編集の仕事とは(本人)


こころの元気+ 2012年8月号特集より
マンガ編集の仕事とは


特集 5
メイキングオブ「うつまま日記。」
病気をかかえた三人がこの本をつくりあげるまで

コンボ編集部
小林絵理子


2012年7月にコンボから出版した『うつまま日記。』は、原作・作画・編集ともに精神疾患をかかえる三人の女性がつくりあげたまんが本です。今回、編集の小林さんに制作の裏話をよせていただきました。


それは五年前に始まった

五年ほど前のこと。
原作者のまつもとさんが、何年間も描きためていた体験まんがをコンボに送ってきました。その後もどんどん送られてきて、気がつけば、段ボール箱一箱分にも…。
その後、この原画は隔月で「こころの元気+」に連載されるようになりましたが、膨大な原作はほとんど手つかずのままでした。

コンボでは、この原作を何とかして単行本にできないものかと考えていたそうです。
うつ病をかかえながらの子育てのたいへんさがとてもリアルに描かれていて、何よりもそうしたたいへんさを少しユーモアでくるんだような内容がとてもおもしろかったからです。
ただ、単行本にするためには、もっとクオリティーを上げる必要がありました。しかし、そのためにどうしたらよいか行き詰まっていました。

コンボには、自分で描いたまんがを送ってくる方がいます。
佑実さんもその一人でした。飛び込みで仕事がほしいという電話を掛けてくる人もいます。それが過去にまんがの編集をしていた私(小林)でした。

自分の体験を描き続けているまつもとさん、画力に長けた佑実さん、まんがの編集をしていた私。
「この三人で単行本ができるのではないか!」と、編集部は考えました。
当事者主体の世の中をめざしているのだから、当事者だけでまんがの単行本をつくったらおもしろいのでは――、その話が本格的になり、「うつまま日記。」単行本化が決まったそうです。 そうして私に編集の依頼が来たのです。

私は、まず、段ボール一箱分の原画を読むことから始めたのですが、コンボの事務所に来ると緊張してしまうので自宅で読むことにしました。
すべての原作に目を通し、整理をするだけで三か月を費やしました。
その後、それをコピーしてまとめるために、事務所に通うようになりました。
もともと単行本をつくるために描かれた原作ではないため、それをまとめるのはなかなかたいへんな作業でした。
ストーリー上で大事な箇所がなかったり、逆に大事でない箇所が大量にあったりして、原作のファイルをつけ足しては削っての作業に一年かかりました。
その途中で、まつもとさんから「単行本として自分の話を世に出すのが不安だ」という電話をいただいたりしたこともありました。

作業が進まない…

その後、私は佑実さんと顔合わせをしました。
佑実さんは外出があまり得意ではないので、打ち合わせには自宅にうかがっていました。
佑実さんはプロデビューをされたことがある方なので、原作ファイルを渡せば、すぐにきちんとまんがらしく仕上がってくるものだと期待していました。
しかし、佑実さんも長年のブランクがあったせいか、仕上がった下書きを見て、直しが必要だと感じました。一ページを五回も六回も直さなければならなくなり、このままでは終わらないのではないかと不安になりました。
さらに、佑実さんの下書きを見たまつもとさんも直してほしいと希望して、作業が進まなくなりました。
通常の原作つきのまんがは原作者と作画の人が協力してつくり、それに編集者がアドバイスを出すのですが、原作のまつもとさんは関西に住み、作画の佑実さんとは遠いため、二人に組んでもらうのはむずかしいと思われました。
時間をかけつつ、私が間に立って二〇ページまで進んだところで、編集長に下書きを見せました。
そうしたら、編集長から大量の直しを赤ペンで入れられてしまいました。
私も編集者として、まだまだ未熟だったということです。
それからは、編集長にもかかわってもらうようになり、編集長のアドバイスのおかげで作品の質も上がって、いくらかスムーズになりました。
それでも、原稿の完成まで先が見えませんでした。

思い切った方向転換

私はまんが家には書きたいもの、表現したい手法がある、と考えていたので、あまり口を出したくありませんでした。
しかし、知り合いのまんが家さんに相談したとき
「専門的なものの解説まんがで締め切りが近い場合、編集者がネームを書くこともあるし、むしろ、まんが家としては楽だよ」
というアドバイスをいただいたのを機に、やり方を変えることにしました。
そして、私がネームを書くことにしました。
まつもとさんの原作を私がネームにして、佑実さんにネームを渡して下書きに入ってもらうようになりました。
まつもとさんにも佑実さんの下書きを送る際に「確認お願いします」とだけ伝えて、これだけはゆずれないというもの以外は、なるべく直しを入れないようにしてもらいました。
こうして、編集者がネームを書き、まんが家さんにネームを渡して描いてもらうという独特のスタイルができました。
いろいろと試行錯誤をした結果、このスタイルが私たちには一番あっていたのです。
そうして描き続けているうちに佑実さんもまんがを描く感覚を取り戻したようで、スピードも上がってきました。
最後の頃になると私が間に合わないくらいでした。

こうして、『うつまま日記。』をつくろうという話が出てから三年以上の月日がたち、ようやく単行本が完成しました。
精神疾患をかかえる三人でつくり上げた単行本―。
これは、まんがの歴史から見ても初めてのことなのではないでしょうか。
みなさんに読んでいただるとうれしいです。
また、ご感想もおまちしています。

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