入院について家族が知っておくこと(専門職)


こころの元気+ 2011年2月号特集より


特集8
入院について家族が知っておくこと

財団法人井之頭病院看護科長
畠山卓也


入院の目的は

当事者の方が病院に入院するときには、
①環境の調整を行う、
②服用中の薬物の調整を行う、
③緊急避難、
④強制治療の開始、
といった目的に沿って治療が開始されます。
特に、①.③に関しては、自発的に入院治療を選択される当事者の方に多くみられます。
また、④に関しては、そのときの症状がその当事者の社会生活に大きな影響を与えている状態であるために、ご本人の意向とは関係なくスタートされるという特徴があります。

ただし、入院治療でできることは、当事者が抱えているつらいこと、苦しいこと(要するに症状)を緩和し、社会生活を営むことができるように調整することであり、根本的に病気を完全に治すということではありません。

確かに、病院というところは病気を治療する場であり、たとえば外科のように根治することが可能な診療領域もあります。
しかし、精神科の病気も含め、多くの病気(糖尿病など)は、その当事者が自身の病気とうまくつきあっていくことが求められるのです。
したがって、ご家族の方には当事者が入院して治療を受ける際に、多くを求めすぎないこと、入院治療でできることを主治医や看護師、精神保健福祉士といった専門職の方と綿密に話し合うことが必要なわけです。

特に、強制治療が開始される場合、当事者の方はかなり傷つくことがあります。というのも、当事者の方たちと現場の最前線で話をしていると、たいていの場合は、「病気の状態が悪いから治療する」という受け止め方よりも、「自分が悪いから強制的に(治療)させられる」といった思いの方が先行しているのです。
そのため、私たち医療専門職は、「あなたが悪いわけではなく、病気の状態が悪いんだ」ということを、くり返し伝え、治療に協力していただけるように働きかけるわけです。
強制治療がスタートされる場合には、たいていの場合当事者とご家族との間には、何らかの葛藤状況が生じていると推察されます。
しかし、ご家族の方には一歩踏み進め、「あなたは悪くないんだよ。病気の状態が悪いから、今こんな状況になっているんだよ。あなたがよくなるのを待っているよ」ということを、当事者にくり返し伝えていただくことが大切ではないかと考えます。

家族にできることは

ご家族の方が、当事者の方との日頃の生活のなかで意識していただきたいこととしては、前記のこと(あなたが悪いのではなく、病気が悪さをしている)をふまえ、「病気」についてオープンにお話をすることをおすすめしたい と思います。

たとえば、気分について、つらいことについてなど話をよく聞き、「こういうことがつらいんだね」というところまで話ができていると、当事者の方も安心するのではないでしょうか。
当事者の方が調子を崩し、そのために普段とは異なった行動が表れている場合には、決して「行動を非難しないこと」です。
行動を非難されることは、当事者にとって、存在そのものを否定されているように受け止めてしまう可能性をはらんでいます。この場合には、関係そのものが悪化してしまい、お互いにとってよいことは何一つありません。
異変に気づいたら、その行動をやめさせる前に、「何があったの?話してみて …」とゆっくり語りかけてみるのも一つの手ではないかと思います。

当事者にとってご家族の方は、最も身近で、頼りになる存在です。
ご家族の方が当事者の方に期待しているように、当事者の方もご家族に望んでいることがあります。
ぜひ、この機会にゆっくりとお話をしてみてはいかがでしょうか?
具合が悪くなったときにどうしてほしいのか、様子がおかしいなと気がついたらどうしてほしいのか …ということも含めて。