再発を通して自分を知る(本人)


こころの元気+ 2011年2月号特集より


特集5
再発を通して自分を知る
NPOコンボ共同代表
宇田川健


再発は自然現象

私には、現在進行中の語るべきストーリーがあります。
再発からのリカバリーのなかにいるのです。

今回の躁うつ病の再発は、二〇〇八年に始まりました。
ひどい状態の私をある人は、「自分が試されているようだった」と表現しました。また別の人は、「ひどい言われようだったが、あながち外れてはいなかったので、つらかった」と表現しました。
そうやって私は、家族や職場に迷惑をかけました。申し訳ないという気持ちがありました。
私は社会の敵でした。後悔と罪の意識でいっぱいでした。

その気持ちは、今となっては、私の語るべきストーリーのなかの、一つのお話になりました。
ひどい躁状態は自分だけでなく他人を傷つけ、迷惑をかけました。そして、その後の二年以上続く長いうつ状態では、自分を責め、自分を否定し、自分と戦ってきました。
今も私は、「私という名の自然現象」と戦っています。しかし戦って勝てる相手ではありませんでした。
「私」ではなく、「自然」にです。
二年前、自然に逆らったから再発がありました。薬をのむのもやめてしまったのです。
そして、自然に逆らうことをやめても、自然は私の味方にはなってくれませんでした。

それでもなお、今回の二年以上にわたっている再発から、私には語るべきことがあります。
ここにあげるのは、私が二〇一〇年の二月五日にコンボの職員に当てて書いたメールです。その頃は、週に一度だけコンボに行って、面接をしていました。一月のなかばから行き始めて、三週目の面接でした。

「今週は、自然に気分が落ちていった感じでした。波が来て、下がったなという感じで、鬱々とした日々をおくっていました。今週は出社できるかどうか不安でしたが、水曜日になって、後先考えずに行ってしまえ、と思い出社しました。そしたら、なんだか楽になって、毎週コンボに行った後に来るぐーっと重い疲れも感じず、過ごすことができました。
調子がよかったのですが、夕食後に洗い物をし終わったらぐーっと疲れを感じ、寝てしまいました。遅れてきたいつもの疲れでした。
一回目は四日間、二回目は二日間、三回目は数時間と、ダメージ回復にかかる時間が短くなっているのを感じます。
最近思うのですが、人間は自然には逆らえないなと思います。僕の病気も自然現象の一つだから、無理して何かするより、この自然現象に向き合って、観察して、付き合っていこうと思っています」

再発を肯定するまで二年

再発すると、精一杯自分と戦い、精一令杯自分を責め、常に苦しい状態が続きます。
病気そのものの苦しみと、社会から自分の責任で離れてしまったという苦痛のなかで、そのうえ何の力も出てこない苦しみのなかで、ある一瞬冷静になるときがあります。その瞬間だけ「私という自然現象」と戦っていないのではないでしょうか。

本音を言えば、再発した人は困った人であり、再発だけは避けなければなりません。それが社会です。一方で私の体は社会のなかの自然です。
あのとき私は、それに逆らったのです。その逆らったという事実すらも、私という名の自然現象の一つだったと、肯定できる今があります。建前だけでなく、本音で再発を肯定できるようになるのに、二年以上かかりました。

脳だけが、手に負えない人の手の届かない、ブラックボックスじゃないのです。
精神病は心の病、脳の病気といって、なんとか説明をしようとしますが、要するに体の病気です。再発は自然に起こることだから、大きく見れば、避けて通れないものなのです。
私たちは、大きな自然のなかの小さな自然として今、ここに生きているんです。ある時期、社会から離れて自然としての自分を生きることしかできないのです。それが自然なことだからです。