こころの元気+ 2010年5月号特集より
特集5
私にもできるんちゃうかなあ
浅香山病院A館デイケア
山﨑勢津子
「デイケアに来てる人、みんな自分で(生活)やってるやろ。それ見てたら、私にもできるんちゃうんかなあと思うねん」
ヒゴさんからそんな宣言を聞かされました。お金の管理や生活のサポートを親戚に手伝ってもらっていた彼女。デイケアに通う日々のなか、お母さんが亡くなり、親戚のサポートもだんだんむずかしい状況になってきて、さてどうしましょう? というときのこの「自立宣言」は、デイケアで担当している私の心に強く響きました。
デイケアに来て六年目の夏
デイケアに通い始めたころは、自分の気持ちがうまく表現できず、泣いたり倒れたりしていたヒゴさんですが、キリちゃんというカレシができ、他にもデイケアでたくさんの友だちをつくり、ケンカしたり仲直りしたりを繰り返しながら、次第に自分の気持ちをうまく表現できるようになっていきました。
そして、デイケアに来て六年目の夏、不安とストレスに揺れ動く気持ちを抱えながらも、自立の道を歩き始める決心をしたのでした。
ヒゴさんは、その秋、私と一緒に自分名義の銀行口座をつくりに出かけました。自分の生活費を自分で管理するというのは初めての体験でした。字を書いたり、読んだりするのがちょっと苦手なこともあって、ヒゴさんは、私から聞いた権利擁護事業の金銭管理サポートを利用することにしました。
これまで親戚の人にいろいろなことを任せていましたが、「自立宣言」を機にヒゴさんは、どんどん外へとつながっていきます。
「部屋の片づけのために、次はヘルパーさんも入れたい」とヒゴさんからの希望。
親しいメンバーからすでにいろいろ話を聞いていたので、ヘルパーさんのイメージはだいたいできていました。この申請は私からの紹介で、近くにある地域活動支援センターのスタッフに手伝ってもらうことにしました。
初めて会う人にこれまでの生活のことやお金のことを話すことに緊張と不安がありましたが、そのストレスも何とか乗り越えました。
初めてのときには私が同席し、また、ことあるごとにキリちゃんが支えてくれました。ヒゴさんには「いろいろな人に関わってもらうと束縛されるんじゃないかな」という不安もありましたが、自分の希望を話せばいいということも知りました。
助けてくれる人が複数いると、自分の都合に合わせて選べるというメリットもあります。他にも、デイケアでできた友だちがケータイショップなどにつきあってくれています。ヒゴさんは今、ヒゴさんらしい「自立」の道を、いろいろな人との「つながり」のなかで模索しています。
デイケアに限らず、そのようなことが見聞きできる場や仲間とつながっておくということが、いずれ訪れるその時(親なき後)に備えるということになるということを、私はメンバーさんたちから教わっています。
つながるためのヒント
さて、こういうような話をすると、
「気楽に通える場所がないから困ってるんだよなぁ」とか「うちの子はデイケアに行きたがらなくて」とかいう声をしばしば聞きます。
つながりを外につくりたいけれど、つくれない …そういう場合は、訪問型のケアやサービスを利用して、まずは家の中で「新たなつながり」をつくってみるのはどうでしょう。訪問スタッフからデイケアや作業所など具体的な話を聞いて、一緒にあちこち見学するうちに、外につながっていく人もいます。
ご本人だけでなく、「家族ごとつながる」という感覚で考えると、また違った可能性が生まれてくるような気がします。
通うところが見つかって仲間ができると、ヒゴさんのように「なんとかなる」という心強い気持ちがご本人にもわいてきますし、仲間からの支えやはげましを得ながら、親なき後も「何とかなってゆく」のだと思います。