精神疾患をもつ人が疲れやすい3つの理由(医師)


「こころの元気+」2013年10月号特集より
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特集11
精神疾患をもつ人が疲れやすい3つの理由

久留米大学医学部神経精神医学講座
内野俊郎


2013年の夏は記録的な暑さが続き、熱中症を警戒する報道もくり返されていました。
栄養ドリンクが一番売れるのはやはり夏だそうで、私が勤めているデイケアでも空き瓶をよく見かけます。

でも、デイケアの場合は夏ばかりでなく、一年中ソファに横になっているメンバーの姿も見かけられます。
外来患者さんからも「どうしてだか、疲れやすいんです」と聞くことが少なくありません。
どうやら、精神疾患をもつ人には疲れやすい事情がありそうです。

それには大きく分けて3つくらいの理由があるようです。
1つは疾患そのものの影響、2つめにはお薬の影響、3つめには生活リズムの影響があげられます。

理由 その1
疾患そのものの影響

精神疾患の多くは、病名にかかわらず緊張しやすく、特に人前に出ることなどに不安を持ちやすい傾向にあります。
人は誰でも緊張や不安が高いと知らず知らずのうちに体のあちこちに力が入り、後から肩がこったり、首筋や目のまわりが痛くなったりします。
また、統合失調症の人は周囲の物音や光といった普通の刺激にも敏感になることが多く、脳への負担がとても大きくなって疲れやすさが増してしまいます。
そんな状況が続くと人前に出るのがだんだんおっくうになるのは自然なことで、その結果、人前で何かをすることに気づかいが増え、ますます疲れやすくなるといった悪循環におちいってしまうこともありそうです。

さらに、人間の疲れは体の筋肉から生じる末梢性疲労と、脳の疲れが関与する中枢性疲労の2つに大別されるのですが、中枢性疲労には脳の中で重要な役割を持っているセロトニンなどの神経伝達物質も関係しているという証拠が見つかりつつあるそうです。
神経伝達物質のアンバランスが起きやすい精神疾患の人が疲れやすいことも、今後明らかになるかもしれません。

理由 その2
薬の影響

抗精神病薬や抗うつ薬、副作用止めの種類や量によって、認知機能と呼ばれる集中力や判断力と深く関係する脳の働きが邪魔されてしまうことがあります。
元気なとき素早くこなせたことがスムーズにできなくなるので、長い時間をかけたり、何回もくり返したりしなければならなくなります。
そうすると当然ながら疲れも増してしまいます。
この認知機能の障がいは、薬のせいだけでなく病気の症状の1つとして起きることもありますので、心配なときにはその可能性について主治医の先生と話し合うことが必要です。

理由 その3
生活リズムの影響

生活リズムが乱れると、多くの場合には昼間に強い眠気を招いてしまいます。
夜の睡眠がじょうずにとれることは、精神科の病気から回復するうえでとても大事なことです。

睡眠のリズムを整えてくれる体内時計の機能がきちんと働くように、毎朝決まった時間に起きるよう心がけてみてください。
いわゆる寝過ぎも疲れのもとになることがあるのです。

また、疲れを癒すのに昼寝はよさそうですよね。
しかし、この昼寝も長い時間になるとかえって睡眠のリズムを乱す原因になってしまい、疲れを癒すどころか悪化させることにもなりかねません。
さらには同じ時間眠っても、昼と夜に眠る場合とでは疲れからの回復に大きな違いが生まれるそうで、睡眠にくわしい先生によると昼寝は20~30分くらいにしておくのがよいのだそうです。

それでも疲れがなかなかとれないときにはどうしましょう?
そういうときに栄養ドリンクを飲む人は多いだろうと思います。
しかし栄養ドリンクに含まれる成分の多くは日常の食事で充分に確保できているものが多いため、栄養ドリンクを飲まなければ乗り切れない疲れというのは実際には多くないかもしれません。
一時的には元気になった感じがあっても、不安や緊張、あるいは生活リズムの乱れといった要因をそのままにして疲れをなくすことはむずかしいだろうと思われます。
従って、まずは基本になる食事や睡眠をきちんと確保することがとても大事になります。

一人ひとりに合った方法

人の中に入っていくことでの疲れは、少しずつ慣れていくことで減っていきますので、疲れ具合をたしかめながら、皆さんそれぞれのペースで、少しずつ人の中に馴染んでいく工夫が役に立つでしょう。
その他一人ひとりに合った疲れの癒し方があるでしょう。

リラックスするための音楽や温泉など、周囲の友人や家族、あるいはスタッフが実践している疲れの癒し方をたずねてみて、気に入ったものがあれば試してみることもおすすめです。

 

「こころの元気+」2013年10月号特集より
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