「こころの元気+」2007年11月号より
実践 アドヒアランス入門
土屋徹/オフィス夢風舎 舎長
まずは知ることから始める
皆さんは、自分がどのような効き目や副作用のある薬をのんでいるのか知っていますか? 知っている人は薬の内容を決めるときに自分の意見も反映されていましたか? よく知らないという人は不安ではないですか?
アドヒアランスというのは、自分自身も積極的に医師や医療従事者と治療の方針や内容を決めていくということです。とはいえ、現在の精神科医療のなかではまだまだ取り入れられているのが少ない状況なのです。
では、治療に積極的に参加していくためにはどのようなことが必要なのでしょうか?
まずは自分の病気について知ることが必要だと思います。病気や症状だと思っていないのに、「薬をのみなさい」とか「外来に通いなさい」など言われても素直に受けとめることはできないと思います。
自分の体験している病気やその症状はどのようなもので、そのことに対してどう対応していくことが必要なのか、ということを知らなければ素直に治療を受け入れることはむずかしいでしょう。
たとえば、「幻聴」という症状にはどうすれば楽になるのか? を考えたときに、それに対応する薬にはどのような薬があって、効果と副作用はどういうもので、どのように服用していくことがよいのか? ということを知っていれば、自らの意志を主治医に伝えることもできるでしょう。
どうすればよいのか
しかしそのような情報を得る機会が少ないのが現状なのです。そのような情報はどのようにすれば得ることができるのでしょうか?
お医者さんや看護師さんとの直接のやりとりのなかで得ることも大切ですが、専門家からの情報と同じ病気を抱えている人たちが集まってやりとりをしながら情報を得る心理教育というプログラムもあります。同じ病気を抱えている人たちとのやりとりを通して、より自分に合った情報を得ることができるでしょう。
情報を得たら、面接などで自分自身でやりとりができるようにしていくことも大切です。よく、頭の中じゃわかっていても、いざ自分の思いを伝えるときに、しどろもどろになったり、自分の意志を伝えられなかったということを耳にすることがあります。
少し練習をしておき、本番に備えるというやり方として、SST(生活技能訓練)などを利用するとよいと思います。
主治医とのやりとり
それでは、自分の意志を伝えていくためにはどのようなポイントがあるのでしょうか? 主治医とのコミュニケーションのポイントとしては、
①今の状況を伝えるときに、困っていることだけではなく、うれしいことなども入れてみる、
②自分がどうなりたいのかを伝える、
③薬ののみ心地を伝える、
④治療について、心配なことや気になること、自分の希望などを伝える、
⑤伝えたいことを忘れてしまうときは、メモしておくことも大切などです。
このように、自分自身が治療を受けていくために必要な知識を得ることや、自分自身の意見を反映させるために、やりとりを練習しておくことができることが、積極的に治療に参加することへの第一歩です。
知らないまま言いなりになって治療を受けるのか。知っていて自分の思いを反映させた治療を受けるのか。
それは自分自身が選ぶことですが、自分のことは自分が責任を持って取り組むことは、後々の生活にも大きな影響を与えることでしょう。
今回はアドヒアランスを実践するための初めの一歩を書いてみました。しかし、何年後かには「アドヒアランス」という考え方もなくなり、治療を協同しておこなうのが、当たり前の世の中になっていってほしいな、とふと思いました。