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特集6 抗うつ薬の適正な使用について
岡山県精神保健福祉センター所長 野口正行
ここ最近、精神科薬物療法が果たして適切に行われているのかどうかについて、社会の懸念が強まってきています。
最近ではインターネットで精神科の薬物療法に関するガイドラインが発表され、一般の人もそれを閲覧することができるようになりました。
SSRI/SNRIへ提言
本稿では、このようなガイドラインの中から、2009年10月30日づけで日本うつ病学会が発表した「SSRI/SNRIを中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言」の内容を解説したいと思います。
この提言は、「特にSSRIやSNRIなどの抗うつ薬によって、攻撃性や衝動性が高まり、自殺関連行動のみならず他害行為が出現するのではないか」という懸念にこたえるような形で発表されたものです。
抗うつ薬が本当にこのような深刻な結果をもたらすのかどうかについては議論があり、まだ最終的な結論は出ていません。しかし、攻撃性や衝動性が出てきやすい特徴はいくつか知られています。
詳細は提言を見ていただくとして、提言が推奨していることを以下にリストアップしてみます。
①大量投与はなるべく避ける
②薬の増量や減量はゆっくりと行う
③薬をのみ始めて最初の1~2週間は特に注意して観察し、イライラ、攻撃的態度が現れたら薬物療法の再検討を行う
④双極性障害が明らかな場合には、気分安定薬をおもに使い、抗うつ薬だけを使うことはしない
ご本人やご家族に注意していただきたいのは、ガイドラインやインターネットなどの情報をそのまま鵜呑みにして、自分の判断だけで薬を減らしたり、中止したり、あるいは増やしてのんだりはしないことです。
抗うつ薬も、人によって体の中に吸収される度合いなど個人差がありますし、重症度も異なりますので、適切な薬の量も個人差があります。薬の選択と量は医師との共同作業で調整していくものです。
うつ病のガイドライン
ただし、日本うつ病学会の別のガイドライン(日本うつ病学会治療ガイドラインⅡ.大うつ病性障害 2013 ver1.1 平成25年9月24日作成)でも指摘されているように、抗うつ薬や抗不安薬や睡眠薬を何種類も組み合わせて処方するのは適切ではありません。
ただ、抗うつ薬と抗不安薬、抗うつ薬と気分安定薬の組み合わせなど、違った作用の薬を組み合わせることは抗うつ薬の効果を補強したりするなどの一定の根拠があります。
言いにくくても伝えて
忙しい主治医に対して、いろいろ聞きにくいかもしれません。しかし、最低限必要な情報として、薬をのみ始めてから、気分や睡眠、食欲、意欲や集中力などが改善してきたかどうか、イライラや怒りっぽさ、不安、不眠などが逆に悪くなっていないかは伝えてください。その他、SSRIなどでは性機能の障害が、SNRIでは尿の出にくさもあります。こうした症状がないかどうかも、言いにくいかもしれませんが伝えてほしいです。
その他、何か心配な状態が新たに出てきた場合、副作用の可能性もありますので、メモなどに書いて主治医に渡すのもひとつの手です。
また主治医に聞きにくい情報を院外薬局で薬剤師に尋ねてみるのもよいでしょう。
抗うつ薬も効果がありますが、無理な活動による疲弊は避けること、生活習慣を規則正しくすること、きちんと睡眠をとることなど、生活面での見直しを同時に行うことも不可欠です。
「薬が合いさえすれば治るはずだ」と短絡的に考えると、生活環境や習慣の調整を無視してしまい、かえって薬を効きにくくしてしまうことがあります。
仕事や生活面での無理が大きく、自分だけの力では改善がむずかしい場合には、周囲の人に協力を求めることも必要かもしれません。
こうした事情は一人ひとり異なりますので、主治医、あるいは他に相談できる人がいればその人と一緒に検討するとよいでしょう。