こころの元気+ 2014年5月号特集より
特集8
つらさやさびしさに効く薬はありますか?
小林和人
医療法人山容会 山容病院 院長
(こばやし かずと):山形県酒田市にある山容病院院長。地域の人に精神科のことを理解してもらえるよう、臨床・相談事業・講演活動を展開中。自殺予防とアルコールの講演で市内のコミュニティセンターを巡回。趣味は自転車。シルクロード単独横断(中国からイタリアまで1万キロ)、オーストラリア横断(ブリスベンからパースまで6500キロ)の走行歴あり。
山容病院院長のブログ:http://blog.livedoor.jp/sanyokai/
すべての人間がそうであるように、医者も年齢とともに変わります。
私の場合、新米の頃はとにかく薬のことで頭の中がいっぱいでした。目の前の患者さんがよくならないと
「きっと薬が合っていない」
「薬を増やさない、と変えないと」と急ぎ、結果として、今より多量かつ多種類の薬を出していたのです。
でもふり返ると、薬の処方は変えていないのに具合がよくなるケースを当時から経験していました。
それを単に「相性」と呼んですませ、深く考えなかったのは、私が未熟だったからです(今でも未熟ですが…)。
その頃、「相性がよい」とされていた方に、私はどのようなことができていたのでしょうか。
音楽を聴くことをすすめたり、散歩を促したり…。
当時は私から生活や行動面での助言を与えることは少なく、会話の流れでたまたまそのような話題になった患者さんにばかり、アドバイスしていたのかもしれませんね。
つらい、さびしいと言われたら
多くの患者さんとの出会いにより、私は少々変わりました。
薬物療法の占める割合が年々下がってきています。
患者さんによって異なりますが、初診でいきなり、私のほうから「薬物療法は大切だが、治療のうちの半分以下、他にも取り組むことがあります」と言ってしまうことがあります。
最初に私の考え方を話しておいたほうが、後々よい結果が出ている気がします。
そんな私ですから、漠然と「つらい、さびしい」と言われても、すぐに処方の提案をせず、あくまで薬に頼らないのがベストと説明します。
それを理解してもらったうえでなら安心して薬を出せます。
もちろん、診断や病気の時期によっては「とにかく今は必要なんだ」と私から強く服薬をすすめることもあります。
その場合でも「抗不安薬は一時的に使うもので、落ち着いたらやめる時期を話し合います」とあらかじめ告げておきます。
ちょっと面倒くさいと思いますか?
その通りです。料理と同じで、手間をかけることが何よりも大切です。さっさと薬を処方せずに、いったん立ち止まって話し合い、考える。
家族や友人と会話する、音楽を聴く、アロマを焚く、散歩に出かける、部屋を片づける、(寒い地方では)雪かきをがんばって汗をかくなど、さまざまなやり方があることに気づきます。
家族構成、生活環境などを知って(教えて)いないと、なかなかこういう話題はできません。
いやあ、面倒くさくてたいへんそう。しかし、これが味の秘訣なのです。
錯覚にとらわれないよう
さて、あなたの先生はどうでしょうか。
きっと忙しいでしょうから「つらい、さびしい」と言えば、つい、すぐに薬の話を始めるかもしれません。
そこで一言、
「先生、つらさやさびしさに効く薬ってあるんですか?」
とか、あるいは思い切って
「先生はつらいときどうしますか?」
とか、聞いてみましょう。
先生に気をつかって(効いている実感がないのに)
「この頓服、効いている気がします」などとむやみに言わないように。そこから深みにはまる恐れがあるんです。
病院の中にいると、何でも診察や薬で解決できそうな気がしますが、それは錯覚です。
この錯覚に医療従事者もとらわれます。
忙しいとつい、その場で何とかしようとして、先を見すえた対応ができなくなります。
「何もしないことの根拠」を説明するのは面倒で、とりあえず何かして見せたほうがその場は楽です。
ここまで偉そうなことを書きましたが、実は私は料理が得意ではありません。なのに料理にたとえていろいろと書いて…医者なんてそんなものです(!)。
医学は常に進歩するので、どんな医者も成長途上だといえます。
遠慮せず皆さんの率直な考えを先生に伝えましょう。
今までと違う診察を経験できるのではないでしょうか。