自分にあった薬に近づくには?/N氏との対話


自分にあった薬に近づくには?/N氏との対話


宇田川健/日米精神障害者交流事業代表


 

自分にあっている薬とは

N 宇田川さん、自分にあった薬って、どんな感じだと思う?
U 僕は統合失調症も持ってるし、うつ病も持ってるんですけど、統合失調症とうつ病では「自分にあっている薬」の基準がちょっと違うと思います。
N あ、そうなの? じゃあ、統合失調症の薬から、自分にあっている薬の判断基準を聞かせてくれる?
U まず、統合失調症の場合はすぐ不安がとれること。のんで安心する薬であることが大切ですよね。それから、夜眠れるようになること。のんでて疲れないことですかね。幻聴とか妄想がとれるのは、少し時間がかかります。後になってわかってくるというか。薬をのみ始めて昼も寝てしまうという時期はあってもいいと思います。ずっとそうなら困りますけどね。
N なるほど。じゃあ、うつ病の薬があっているのは、どんな状態なの?
U うつ病の薬で特に必要なのは、やっぱり不安がとれることと、つらさがとれることですね。家で休んでいる間、安心していられることも薬が手伝ってくれることですかね。気持ちがもち上がってくるには、しばらくかかりますからね。それから、やっぱり夜はよく眠れることですかね。眠れるようになれば、後は時間が解決してくれるという感じだと思います。
N すぐに症状がおさまるということはないの?
U たぶんどんな薬でも、すぐに効くっていうのは、幻聴が止まるとか、うつの重い気持ちがとれるとかですけど、すぐにスパッと効く薬ってわけじゃないと思います。薬が効くまでには一?二週間かかるんですよ。脳の中で変化が起こるには。それと薬をのむのも大切なんですけど、それと一緒に、家族の人が病気のことを勉強して、対応の仕方を変えるとか、のんでる本人が病気のことを勉強して症状の切り分けができるようになるとか、そういうことがないと。それからデイケアとか作業所とか、そういうところに出かけられるようになるとか、そういうことが薬の効果に関係してくるんです。精神病って「薬」プラス「リハビリ」でよくなっていくものなんです。

症状の切り分けってなに?

N なるほど。ところで、今の話に出てきた「症状の切り分け」って何?
U たとえばね、僕がいつも再発するうつ病では、朝気分が悪くなるとか、一日のうちに決まった時間に気分が重くなるけど、その他の時間は大丈夫だとか、怒りの感情が起こりやすいとか、死にたいと思ってしまうとか、そういう病気の特徴的なことを知ることです。そういう病気の特徴的なことは、薬が効きやすい部分であると思いますよ。医者も興味を持つのはそこばっかりですけどね。
N たとえば、統合失調症ならどんな切り分けができるの?
U 典型的なことですよ。まずは夜に眠れない。朝早く目が覚めてつらい。怒りやすくなった。まわりの人が変なことを言う。まわりに変なことが続く。幻聴なのかわからないけど、正体不明の声が聞こえる。妄想を持っていてつらい。常に不安が大きい。誰からも攻撃されている、などなどです。そういう自分に気がついたら、医者にそれを言うほうがいいと思います。

医師とのかかわり方のコツ

N ところで、お医者さんとのやりとりで、自分にあった薬に近づくためのコツってある?
U 自分の状態を伝えるときに、たとえば「何月何日と何日と何日に朝早く目が覚めてしまいました」とか「先週の何日ごろからこれこれこういう思いがあって、つらくて、ずっと不安なんです」って、自分で切り分けた症状を、こういう出来事があった、というふうに話してあげると、医者も薬を出しやすいんです。
N 主治医とのコミュニケーションが、うまくいくわけだね。
U たしかに医者が使う言葉を覚えていくと、医者に話が通じやすくなることもあります。でも、それを体験として具体的な出来事をふまえて説明してあげるんです。すると医者の頭の中に症状が伝わりやすいんです。
N どうすれば医者が使う言葉が覚えられるのかなあ?
U 受診しているときに医者本人から教えてもらえばいいんです。病気のことを医者に教えてもらうんですよ。「こういうことがあったんだけど、それは、うつ病の症状ですか。なんていう症状なんですか」って体験のできごとと、症状の名前を結びつけるように、主治医に教えてもらうんです。専門用語を引き出してあげるというか。医者の言葉で病気の症状を共有する努力をするんです。
N 病気の勉強は受診の時にするんだね。
U 医者によっても説明するのがうまい人、下手な人、説明をしたがらない人と、いろいろいるので、いい医者に当たるかどうかで、受診のときに勉強できるかどうか決まりますけどね。
N 僕がうつ病になったときは、まったく説明なんてしてくれなかったけどね。医者にこれこれこういうふうになって、眠れなくなってって、いろいろ話したら、「はい、じゃ薬出しときますから。のんでください」っていわれただけだった。
U 僕の前の先生は説明をよくしてくれて、僕がたとえば「毎日朝は元気がなくて夕方になるとすごく元気が出るんです」というと、「それは気分の日内変動ですねえ。うつのよくある症状です」とかこちらが勉強になる説明をしてくれたんです。で、僕もだんだん医者に協力的になっていって、そのうち「日内変動が出はじめたので、抗うつ剤を出してください」とか、「早朝覚醒が治ったので、抗うつ剤をやめちゃっていいです」とか言えるようになったんです。それで、躁うつ病の気持ちのアップダウンが自分でもつかめるようになって、だんだんよくなっていったんです。

意図を共有するという考え方

N 専門用語を知って、医者と専門用語で話をできるようになったんだ。
U ところがですね…そのお医者さんは転勤しちゃって、お医者さんが変わったんですよ。
N ほお、それでどうなったの?
U 新しいお医者さんに、「日内変動があるので、抗うつ剤を出してください」とか、「感情のコントロールができなくなったんで、バルネチールをください」と言ったら、そのお医者さんはびっくりしちゃったみたいなんです。
N へえ、なんで?
U あなたのような、ものの言い方をする患者さんは初めてで、私はとまどっています。みたいなことを言われちゃったんです。
N 前のお医者さんとは違う対応をされちゃったんだね。
U そうなんですよ、丹羽さん。医者によっては患者が専門用語を使って、薬の指定まですると、とまどう人もいるんです。だから、自分の頭のなかでは、専門用語を考えて、欲しい薬もわかっていても、それをあえて口には出さないほうがいいと思ったんです。
N そのお医者さんにとっては、薬まで指定されるのは初めての体験だったのかねえ。
U そうみたいなんです。症状を専門用語で共有できないことがある。だから、今度の先生には専門用語を使わずに、専門用語に直接結びつく体験を、時間を追って話して、医者にもわかるように言ってあげないといけなくなったんですよ。判断は先生にさせてあげないと。先生は不安になるみたいで。
N 先生が不安になっちゃったんだ。あらまあ。
U でもウソをついているわけではないし、先生を飛び越えて判断してないし。今度は体験を切り分けて、順を追って話をして、医者と意見を共有するということをはじめたんです。そうしないとうまく症状を共有できなくなったんです。
N 症状を共有する…。
U そう。病気に関係あることと、病気に関係ないこと。困っていること。受診は人生相談じゃないですから。病気を知って、専門用語を知って、先生と意見を共有する。でも、あえて専門用語は使わずに、切り分けた体験を話す。そして判断は先生にまかせる。
N でも薬は自分の思ったとおりで、ということ?
U 思ったとおりというよりは、こちらの意図を共有するということです。
N そのためには病気のことを本当によく知らないといけないね。
U そう。病気のことというより、自分によく出る症状を知るという感じですかね。
N 自分をよく知る、ということなのかな?
U 病気も自分の一部。薬をのむのも自分ですからね。