こころの元気+ 2011年8月号特集より →「こころの元気+」とは
特集6
ピアサポートとは何か?
日本社会事業大学大学院博士前期課程
澤田優美子
本人の可能性を広げる力
私は入院中の病院での非人間的な扱いによって、自尊心がずたずたにされた経験があります。
しかし、クラブハウスで仲間から仕事のやり方、パソコンの使い方、ミーティングの進め方などを教わり、自尊心と自信を回復しました。
もし、私が退院後通った所にピアサポートがなく、仲間の力を感じることがなかったとしたら、私の自尊心や自信がめざましく回復することはなかったでしょう。
また、私には疲労、過眠、うつがありますが、同じ症状のある仲間と話すことで気持ちが癒されますよね。
症状について、職員に相談するだけだったとしたら、これほど癒されることはなかったでしょう。
今では、先輩株として見られ、精神保健福祉士などの資格を取得し、大学院で学び続けていることで、仲間が「澤田さんががんばっているから、私もがんばる」と言ってくれます。
その言葉で私もはげまされます。そもそも、私が精神保健福祉を学び始めた動機は、講演や仲間やご家族の方からの相談を受けることが多く、責任と学ぶ必要を感じたことです。
私に仕事やパソコンなどを教えてくれた仲間も、自信をつけ成長しています。顔と名前を公表しての講演活動や執筆活動、高校卒業、就労、結婚などをしています。
彼らも、私たちに仕事を教えることなく、職員に指示された作業をこなすのみで、仕事を教えるのはもっぱら職員だったとしたら、今日のように大きく成長することはなかったでしょう。
インフォーマルなことからフォーマルなものまで
さて、今回私は「ピアサポートとは何か」ということについて考察してみたいと思います。
ピアとは、英語で「仲間」を意味します。
一般に、同じ問題や環境を体験する人が、対等な関係性の仲間で支え合うことをピアサポートといいますが、ここでは、精神障碍がいのある人々のピアサポートに焦点をあててご紹介させていただきます。
これまでのセルフヘルプ・グループも、ピアサポートに含まれます。
セルフヘルプ・グループとピアサポートには、まだ明確な線引きがされていません(日本精神保健福祉士養成校協会、二〇〇九)。
まず、インフォーマル(非公式)な側面では、たとえば、喫茶店で定期的に会合をもっていて、グループ名をもたず、名のりをあげないグループ、一人で機関誌を出し、誌面を通じて仲間をもっているが、特別に集会をもつことがない活動など、さまざまです(谷中、一九九〇)。
もし、あなたが個人的に仲間の相談にのったり、ごみ出しや買い物などを手伝ったり、通院などに同行したりしているなら、それも立派なピアサポートではないでしょうか。
フォーマル(公式)な側面では、たとえば地域活動支援センターなどの活動の一環として正式に行われたり、グループ名をもち、組織化して行ったりしている活動のことです。
次に述べるようなピアカウンセリングを行うことも多いです。
ピアカウンセリング、ピアリスニングなど
ピアカウンセリングとは、ピアで相互に行う個人レベルの相談・支援活動のことです(日本精神保健福祉士養成校協会、二〇〇九)。傾聴と情報提供(当事者ならではの経験と知恵をいかして)が原則です。
基本的な理念は、人は誰でも適切なチャンスさえあれば、自分の課題を解決できるという信念です。
自己決定、自己選択ができるようにするのが基本姿勢です。特徴は、同僚市。民の一人として、助け合いながらQOL(生活の質)を高める相互支援の関係です。
決して、カウンセラーの考えを押しつけることはしません(寺谷ら、二〇〇四)。
ピアリスニングも、同様です。ピアリスニングでは、傾聴するだけで情報提供は行いません。本人が自分で気づく力を信じるからです。
ピアサポートの歴史・当事者の時代
欧米の保健・福祉分野のセルフヘルプ・グループの起源は、一九三〇年代からです。
精神障碍のある人々のセルフヘルプ・グループとしては、AA(アルコール依存症患者の会)やリカバリー協会(精神障碍回復者の会)などが最初とされています。五〇年代から六〇年代に多くのグループが設立されました。
七〇年代には、ほとんどの障碍や疾病にわたるといわれるほどセルフヘルプ・グループが増大しました。九〇年代には多くの精神障碍の回復者のセルフヘルプ・グループが設立されました。
日本のセルフヘルプ・グループは、おおよそ第二次世界大戦以降からグループが設立され、特に一九六〇年代後半から七〇年代にかけて、欧米型のセルフヘルプ・グループが組織化され、年代により障碍、疾病、難病、嗜癖といったグループが設立されました(半澤、二〇〇一)(久保ら、一九九八)。
このうち、障碍のある人々の集うセルフヘルプ・グループが最も多いです(半澤、二〇〇一)。
ただ、精神障碍のある人々のセルフヘルプ・グループのくわしい歴史は、まだ把握されていません。
グループができては消えていってしまうこと、インフォーマルなものが少なくないことから、把握がむずかしいのです(谷中、一九九〇)。
セルフヘルプ・グループが増大した理由としては、
①家族・近隣などのサポートシステムが崩壊したこと
②専門的機関・制度などが少なかった・なかったこと
③制度によるサービスでは満足できないものを満たそうとしたこと
④利用者の主体性、権利意識などが増大したこと
などをあげることができます(久保、一九九八)。
当事者サービス提供者の歴史としては、二〇世紀初めにアメリカでビアーズによる当事者の権利擁護の声から精 神保健協会が始まりました。
一九四〇年代、退院後の精神科患者のセルフヘルプ・グループが、心理社会的リハビリセンター・ファウンテンハウス(クラブハウス)を始めました。その後、他の心理社会的リハビリセンターが当事者のエンパワメントを促進しました。
七〇年代には、ドロップインセンター、無料宿泊所、自己発見支援グループなどを当事者が発展させ、反精神医学運動を展開しました。
七〇年代後半、連邦政府プログラムが助成金を通して当事者運営サービスを促進しました。
現在、ほとんどの州の精神保健部局に当事者問題の管理局が置かれています。当事者サービスは、受ける人にも与える人にも害はなく、健常者によるサービスと同等に有効であることが立証されています(Solomon、2010)。
日本でも、クラブハウス、ドロップインセンターなどの活動が行われています。また、近年は当事者スタッフや、当事者で精神保健福祉士の資格を取得する人が多くなっていますね。
日本社会事業大学では、精神保健福祉士の通信課程の学生の一〇人に一人は当事者だそうです。
医療との両輪
歴史的に、当事者運動が反精神医学運動を含んだ時期もありましたが、やは。り医療は必要です。
ただし医療だけでは限界があり、ピアサポートと医療の相乗効果で、めざましい回復が期待できるということです。
ピアサポートと医療のバランスをとり、車の両輪とすることにより、前進できるのです。
同様に、精神保健福祉の専門家も必要です。専門家は、専門知識や技術をもっており、ピアサポートの触媒のような働きをします。
当事者の専門家も必要ですが、健常者の専門家も必要です。
健常者とも同じ人間としてつきあって、健常者にも弱みがあること、自分にも彼らに負けない強みがあることを知ってこそ、本当に障碍がい者も健常者も同じ人間であるとわかりますよね。
最後に、あるピアサポート活動メンバーは、活動を通して、「病気になったことも悪いことではない、いい経験だったと考えています」と述べています。
ピアサポート活動は、とかくマイナスと思われがちな病気という経験を、プラスに変えてくれるのです。
あなたも、ピアサポートを始めてみませんか。