特集1
アニメ療法 何ものなのか?(215号)
○「こころの元気+」2025年1月号より
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筆者:パントー フランチェスコ
慶應義塾大学病院 精神神経科学教室/筑波大学 人間総合科学研究科疾患制御医学専攻
社会精神保健学 欧日医師資格 博士号
▼アニメ療法とは?
皆さん、アニメ療法について聞いたことがありますか?
まず定義から始めましょう。
アニメ療法は日本風のアニメ、ゲーム、漫画、小説、ラノベ(ライトノベル)、広くいえばフィクションを活用し、ユーザーのメンタルヘルスを高める手法です。
フィクションの根底にあるのは「物語」です。
エンターテインメント性の高い物語も多いですが、物語は息抜きとして鑑賞することも多く、さらにそれはポジティブな心理的効果をもたらします。
アニメ療法は、心理学とエンタメの橋渡し的な役割を果たすものとして期待できます。
アニメ療法の鉄則は楽しさがファーストで、精神健康度の向上は副産物となります。
具体的にどんなアニメ療法があるのかというと、作品との能動的な相互作用がないか、あるかによって、非フィードバック型とフィードバック型アニメ療法があります。
▼非フィードバック型
非フィードバック型アニメ療法の一番わかりやすい例をあげるなら、作品の鑑賞です。
建設的な要素、カタルシス的な要素を含む作品を鑑賞するだけで、アニメ療法が成り立つ(作品を観ることで引き起こされる感情が、心にたまっていた感情を解放し、快感を覚える)場合があります。
皆さんも
「好きな作品を観て癒された」
「好きな作品を観てリラックスできた」などの体験をした方は多いでしょう。
私もこういう非フィードバック型アニメ療法を体験したからこそ、「もっと何かをすれば作品の力が増幅するのではないか」と考えるようになり、アニメ療法を研究し、提唱し始めました。
▼フィードバック型
フィードバック型アニメ療法は、さらに1次型、2次型に分けられます。
◆フィードバック型(2次型)
2次型は、たとえば作品を鑑賞してから精神療法を受けるときに成立します。
映画療法にも当てはまりますが、作品の中のキャラクターの感情、出来事の意味などをカウンセラーの力を借りて話し合うことで、キャラクターの心理と重ね合わせれば、鑑賞者は自己理解を深めることができるでしょう。
◆フィードバック型(1次型)
1次型というのは、作品自体に精神療法の要素が含まれていることを意味します。
私はこういう作品を「パワー型カタルシス作品」「機能性作品」とも命名しています。
現在、鑑賞する、インタラクションするだけで「元気になる」1次型のような作品は存在しないと思われますが、一番類似性が高いのは「デジタル治療アプリ」です。
スマホにも使えて、おもに個人の生活習慣や行動に変化を生じさせ、治療効果をもたらすアプリなどです。
でも、物語性つまりストーリーとキャラクターを通じて健康を高めるわけではないので、アニメ療法としての要素はとぼしいと思われます。
ただコンセプト自体が(テクノロジーを活用する、アプリなど)今後アニメ療法にも活用できるのではないかと思われます。
アニメ療法では、もちろん治療的な効果が副産物となり、エンタメ性と楽しさが一番担保すべきところとなります。
本当であれば、アニメ療法の開発といえば、1次型アニメ療法こそが、今まで確認されていないポテンシャルを含んでいます。
▼5本の柱
なぜアニメ療法における作品が効くのか?「5本の柱」を紹介し、解説します。
1:ナラティブ(物語)は普遍的な存在であり、私達の人生の物語との比較対象となり得ます。
2:エンタメをめざして生まれた作品ではなく、あらかじめ治癒的な機能を持つように作られた作品は、より効果を持つと思います。
3:孤立化が進む社会では、物語はただの気晴らしではなく、メンタルヘルスケアのためのアクセスしやすいツールになり得えます。
4:デジタル化する社会では、遠隔で受けられる心のサポートが必須となります。
つまり、患者は多いが専門家が足りないなど、対面式の診察がやりにくくなる未来では、遠隔医療が不可欠になると思います。
空想のキャラクターとつながるアニメ療法は遠隔医療こそがもってこいではないかと思っています。
5:条件を満たせば、生身の人間関係だけでなく架空の関係も、ある程度心の支えになり得ます。
物語が私達の言動を変えさせるメカニズムの軸には感情移入(物語への、のめりこみ)があります。
物語への没入があるからこそ、私達は物語の主人公達を身近な存在と感じるようになり、彼らと比較することで自己変容もあり得ます。
皆さん、アニメ療法についてもっと知りたくなったでしょうか?
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