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第117回
経験専門家(214号)
○「こころの元気+」2024年12月号より
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筆者:下平美智代(社会福祉法人 所沢しいのき会/一般社団法人COMHCa)
筆者:志賀滋之(社会福祉法人 所沢しいのき会)
▼経験専門家とは?
経験専門家(Experts by Experience)とは、慢性疾患や障がいをもつ人の「経験」に敬意を表した呼び名です。
イギリスや北欧では、「クライエント」や「サービスユーザー」に替わる呼称として広まりつつあります。
イギリスでは、行政や専門職と経験専門家との協働・共創が奨励されており、たとえば、公的な臨床心理学の博士課程のトレーニングプログラムには、経験専門家が関与しています。
(※引用: Kerry E, Collett N, Gunn J (2023) The impact of expert by experience involvement in teaching in a DClinPsych programme; for trainees and experts by experience. Health Expectations 26:2098–2108.)
フィンランドでは、経験専門家が自分自身の経験を語る、あるいは経験にもとづく考えや意見を発信する、という活動をするための養成講座が複数の機関で提供されています。
私達は、「経験専門家」という呼び方と活動を日本でも広めたいと考え、埼玉県所沢市の「経験専門家養成講座」の運営に計画から参加し、講演会や学術誌に原稿を載せることなどを通して発信しています。
以下に、この講座を修了し、現在は運営スタッフとして活動中の志賀の体験談を紹介します。
▼語り聴く経験を重ねることで変化した気持ち(体験談)
●経験を語ること
「経験専門家養成講座」では、自己の経験を語り、他の参加者に聴いてもらい、「理解を深めるための質問」をされ、リフレクティング(会話についての会話を)してもらうことで、経験そのものを肯定される体験をしました。
私の中に埋もれていた困難な道のりが皆に共有されて、皆の心であたためられたように感じました。
講座の修了後は、経験専門家としてさらにこれまでの経験を見つめ、語るということをしています。
自らの経験は、聴き手が違えば異なった受け止め方をされ、そのことで自己の経験がさまざまな色合いを持ちます。
私の経験は固着した過去の遺物ではなく、現在にも生きていると感じられます。
●経験を聴くこと
他者の経験を聴くことも同じく、1つの事例ではなく、生き物のように脈打つ経験を耳にする体験となります。
ただの「病状」ではとらえきれない人生の豊かさを感じるのです。
困難な経験をした人の語ることは、過去の傷、小さな幸せなど、種々様々です。
それを聴く私の心に生まれるのは、人が一生懸命生きてきたことを尊重する気持ちです。