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第113回
ウェルビーイング(210号)
○「こころの元気+」2024年8月号より
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筆者:井筒節
東京大学大学院 准教授
▼ウェルビーイングとは?
近年、ウェルビーイングという言葉を耳にする機会が増えました。
一方で、その意味を問われると、よくわからないという方も多くいらっしゃいます。
国連等でも、正式な定義は作られていません。
世界保健機関(WHO)は、暫定的に、
個人・社会が経験するポジティブな状態で、健康同様、日常生活のリソース(もととなるもの)で、社会、経済、環境に影響を受けるとしています。
ウェルビーイングを理解するには、この概念に注目が集まるようになった背景をみてみるとよいかもしれません。
長らく、国・地域や個人の状況を表す指標には、お金(収入やGDP)、死者数、病気の有病率等が用いられてきました。
90年代以降は、環境、ジェンダー、教育、雇用、人権等の指標も使用されています。
一方、お金があり健康でも、苦しい思いをかかえる人もいます。
そこで、伝統的指標では捉えきれない1人ひとりの状況に着目する必要性が認識されるようになったのです。
極度の貧困や死亡率が減り、生活の質への関心が高まったことの影響もあるでしょう。
▼定義づけはむずかしい
しかし、定義・測定しようとすると困難に直面します。
人それぞれ大切なこと、価値観、ニーズは異なるからです。
高級品が好きな人、物より体験という人、心のつながりが大切な人、自然が最も好きという人、どれもほしい人、どれもいらない人。
満足の基準も、人と時により異なります。
また、「幸せ」等の感情は移ろうもの。
でも、基本的人権、安全、尊厳が保たれることが基盤であることは間違いないように思います。
▼どうすればウェルビーイングを保てる?
平和、安全、経済、環境、人権、公平性、身体・精神保健、人やコミュニティーとの関わり、持続性、文化・芸術や信仰等、さまざまな要素の「その人なりのバランス」が大切なのだと思います。
自分で意思決定できるかどうかも。
一方、求めすぎれば、満たされていても不十分に感じる等、心持ちや自らのレジリエンスの影響も大きいものです。
環境・制度・態度における社会的障壁を減らすことで自他の苦しみを減らし、欲求と現実、自分と他者との関係等のバランスをとり、互いに支え合い、感謝することで、ウェルビーイングは保つことができるのかもしれません。