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第112回
複雑性PTSD(209号)
○「こころの元気+」2024年7月号より
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筆者:増田史(滋賀医科大学 精神医学講座 助教)
▼複雑性PTSDとは?
“複雑性”とつかない「PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
PTSDとは、事故や災害など、ひどくつらいできごとがあった後に、1か月を過ぎても、そのときのことが急に頭に浮かんできたり、眠れなくなったり、イライラしたり、気分が落ちこんだりして、日常生活に支障が出る状態のことをいいます。
これに加えて、虐待・いじめ・戦争など、何度もくり返し心の傷を受けた場合には、心の動きの根底に、より大きな影響が出ることがわかってきました。
これは自己組織化(DSO:Disturbance of Self–Organization)障害と呼ばれ、
●感情がコントロールできない
●自分をとことん否定的に捉える
●安定した対人関係がとりづらい
という3症状を指します。
「くり返されたトラウマにより、PTSDの症状と、自己組織化障害の症状が出ている状態」を、複雑性PTSDと呼びます。
▼他の病気との関係
複雑性PTSDの症状は、後になって波のように出てくることも多いものです。
落ちこんだり急に元気になったりと、気分症状が目立つと「うつ病」や「双極性障害」と診断されることもありますし、実際に合併していることもあります。
また最近だと、小児期のトラウマ体験による複雑性PTSDの診断が、精神病症状(幻覚や妄想)と関連しているという報告も出ています(※1)。
(出典:※1:Groenewold, N. A. (2023). Complex PTSD as mediator of psychosis after childhood trauma. The Lancet Psychiatry, 10(10), 735-736.)
▼治療と最初の一歩
複雑性PTSDのケアで、特に重要なのは「心を安定させる」こと(※2)。
(出典:※2:Herman, J. L. (2015). Trauma and recovery: The aftermath of violence–from domestic abuse to political terror. Hachette uK.)
つらい状況から、とれるだけの距離をとったり、しんどいときに心をおだやかにする対処方法を身につけたり、睡眠や食事など基本的な生活を見直したりすることが含まれます。
とはいえ私も経験したことですが、「自分が幸せになってもいい」ということを知らないと、自分のケアに取り組む勇気も出てきません。
これを読んでいるあなたは、間違いなく幸せになっていい存在です。
それだけは断言します。
自信を持って、自分自身をケアする決意をしてくださいね。
出典
※1:Groenewold, N. A. (2023). Complex PTSD as mediator of psychosis after childhood trauma. The Lancet Psychiatry, 10(10), 735-736.
※2:Herman, J. L. (2015). Trauma and recovery: The aftermath of violence–from domestic abuse to political terror. Hachette uK.
○「こころの元気+」2024年7月号より
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