ぐっと身近になる研究の話 (207号)新連載


新連載
ぐっと身近になる研究の話
私達とどんな関係があるの?(207号)

○「こころの元気+2024年5月号より
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第1回 新連載の開始にあたって

ポイント
●前の連載は身体・脳・こころのつながりを伝える内容だった
●研究は当事者や家族の要望から始まることもある
●この連載は皆さんと研究にはつながりがあることを伝えるもの


前の連載をふり返って

私は、2022年8月号から2023年7月号の12回にわたり「身体・脳・こころを整える」を本誌に連載しておりました。

今回から始まる連載は、診療に何か問題があり、当事者が困っている事態を解決するために臨床研究は行われていることを知っていただくものですが、
前の連載「身体・脳・こころを整える」を踏まえて始めるものですので、まずは前の連載をふり返ってみたいと思います。


「身体・脳・こころを整える」の連載

前の連載は、『こころの元気+』の編集部の方が、
「薬の副作用を含めて身体的な問題で困っている当事者が多いので、そうしたことを伝えてくれる方はいないか?」と夏苅郁子(なつかりいくこ)先生に質問されたことがきっかけでした。
そして、夏苅先生が私をご推薦くださり連載が始まりました。

夏苅先生は、かねてから「『身体』と『心』はつながっているはず! 治療でも病態解明でも創薬でも、精神科医は患者さんの身体にも関心を持つ必要があるはず!」と、私と同じ意見をお持ちでした。
引き受けるのは当然でした。


身体面への配慮

夏苅先生のお言葉は、まったくそのとおりだと思います。
私自身は、他の診療科があり、種々の検査も可能な医療機関で精神科診療に携わってきましたから、身体面に関心を持つのは当然だったといえます。

最近は精神科医になる場合でも最初の2年間はさまざまな診療科を経験するのが決まりになっていますから、身体面も配慮した精神科診療をする精神科医が増えているのではないでしょうか?
(と期待しています)

 

関わった研究を活かして

前の連載の中では、私が関わった研究内容を引用することがありました。

たとえば、
○「睡眠時無呼吸があると、睡眠中に交感神経の過活動が起き、高血圧などが生じやすいが、精神疾患には睡眠時無呼吸が合併しやすい」2023年1月(191号)精神疾患と睡眠時無呼吸症候群より

○「一部の抗精神病薬を服用中の場合、血中プロラクチン(ホルモンの1種)が高く、性機能障害が生じている方が多いが、他の抗精神病薬への切り替えで改善する」2022年11月(189号)精神疾患の治療薬で起こりやすいホルモン異常、高プロラクチン血症)より

○「統合失調症の当事者の約0・5%を占める22q11.2欠失を持っている方々は、先天性の心疾患などの身体疾患を合併していることが多い」2023年4月(194号)精神疾患と身体疾患を同時に伴いやすい遺伝性疾患(ゲノム情報関連疾患))より
などです。

 

当事者・家族の声を研究に活かす必要性

研究は一般的に「いまだわかっていないことがらを明らかにしたい」という研究者の好奇心で進められます。

ただし、当事者の協力のもとで実施する研究(「臨床研究」といいます)の場合は、
「診療の問題点を解決したい、診療上の疑問点を明らかにすることで診療をよりよいものにしたい」との考えから、当事者・ご家族に説明をして、「この内容なら協力してもよいだろう」という当事者の同意を得て進めます。

「解決すべき診療の問題点」、すなわち「研究テーマ」の設定が重要ですが、当事者・ご家族から「このような研究をしてほしい」との願いをお聞きすれば、最優先の「研究テーマ」にしています。

●医師に相談する訓練で

たとえば、薬の悩みを当事者が主治医に相談する訓練をしたうえで実践するSSTプログラムを行っていたときのことです。

参加した複数の当事者から、「性機能障害で悩んでいた」との話をお聞きしました。
「性機能障害」は言葉にしにくいが、多くの方が悩んでいることがわかったので、
「言葉にしなくてもよい答えやすい性機能障害の質問紙を開発する」
「開発した性機能障害の質問紙による調査と血中プロラクチンの測定で、性機能障害や高プロラクチンの頻度と両者の関係を検討する」
「薬剤を変更したら性機能障害や高プロラクチンがどうなるかを検討する」
という研究を大学院生達と行って論文にし、その結果を前の連載に活かすことができました。

 

新しい連載

当事者・ご家族は「診療においても、研究においても、精神科医は患者さんの身体にも関心を持つ必要がある」との声を上げ続けてください。
その声は必ずや精神科医や研究者、診療や研究に関係する政府の機関に届きます。

この新しい連載は、研究が当事者や家族にとってどんな関係があるのかを伝え、研究が皆さんにとってぐっと身近なものになることを願い、
夏苅郁子先生・橋本亮太先生、そして私、尾崎紀夫の3人でお伝えしてまいります。

 


○「こころの元気+2024年5月号より
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