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第106回 操作的診断基準(203号)
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筆者:植田俊幸(鳥取県立厚生病院・精神保健福祉センター)
▼「操作的」とは?
皆さんは「お金持ち」というと、どんな人を思い浮かべますか?
貯金がたくさん、住まいは豪邸など、いろいろなイメージがありますよね。
感じ方は人それぞれでいいのですが、あまり違うと話がかみ合わなくなってしまいます。
そこで、何かの調査をするときには「年収〇〇円以上の人」というように決めて、対象をはっきりさせます。
このように、あいまいなことを誰にでもわかるように、はっきり決めるやり方を「操作的」といいます。
英語の「オペレーション」を翻訳した言葉です。
▼精神科の診断
精神科の病気には診断の決め手となる検査があるわけではありません。
今の症状や、これまでの経過をくわしく調べて診断されるのですが、時には主治医ごとに見立てが変わることもあります。
あまりに診断が違うと、とまどいますよね。
そこで、
「うつ病とは『すごく気分が落ちこむ』か『興味や喜びがなくなった』という症状と、眠れなかったり食欲がなかったりする症状がそろった病気」
というように、「診断の決まりごと=基準」をはっきりさせた診断「操作的診断」が主流になってきました。
基準があれば、誰でも同じ診断ができるようにマニュアルを作れます。
今、精神科でよく使われるのは、WHO(世界保健機関)が作ったICD-10またはICD-11と、アメリカ精神医学会が作ったDSM-5です。
「この病気にはどの薬が効くか」といった調査研究では、まず対象となる患者さんの診断が同じでなくてはなりません。
そのときには操作的診断基準でつけた病名が役立ちます。
▼病名と治療
マニュアルがうまくできていても、情報が足りなかったり、かたよったりしていると正しく診断できません。
同じ人にいくつもの病名があてはまることもあります。
また、「薬や心理療法をどうするか」などの治療方針は、病名だけでなく、人それぞれの状況に合わせて決められます。
私が精神科医になった30年前には、まず「従来診断」を学びました。
患者さんの今の様子を、「うつ状態」や「妄想状態」などと診断し、もともとの性格や育ち方や生活状況なども考えて病名をつけます。
実際の治療や支援を組み立てるのに役立つことも多いやり方です。
どの診断が正しいかよりも、その人が楽になり、生活しやすくなることが大切です。
※「DSM-5」の参考文献:高橋三郎、大野裕 監訳「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」医学書院、2014
※「ICD-11」の参考文献:神庭重信、針間博彦、松本ちひろ、丸田敏雅 監修「ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ」日本精神神経学会、2021