特集3
じょうずに断るためのヒント(202号)
○「こころの元気+」2023年12月号より
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筆者:吉田穂波
(神奈川県立保健福祉大学 大学院 ヘルスイノベーション研究科 教授)
人間関係が、心身の健康に大きな影響をおよぼしていることはよく知られています。
皆さんも、周囲の人と気の置けない関係ができているときは元気になり、険悪な雰囲気になると消耗した経験はありませんか?
断れないのは自然なこと
それは人間が、太古の昔から群れに属し、集団の中で子孫を残すことで生き延びてきたからです。
そのうえ人間は、ほかの動物以上に役割分担をして、頼り合いながら進化してきました。
ですから、誰かの役に立つことに喜びを感じ、頼られれば存在意義が高まり、自己価値観が上がり、うれしくなるのです(『頼るスキルの磨き方』出版・KADOKAWA 参照)。
一方で、人の頼みを断ることには大きな痛みが伴います。
特に、やさしくて共感力の強い「いい人」ほど、人からの頼みを断ると相手が嫌な思いをするだろうと考え、断れなくなってしまうのは自然な成り行きです。
「断れない」。
これは、人の役に立つことに価値を置く人間が、過去から受け継いだ強い生存本能ともいえます。
じょうずな断り方とは
しかし、私達は、頼まれたことすべては引き受けられません。
そのとき、どんな断り方をすると大事な人間関係が壊れずにすむのでしょうか?
じょうずな断り方とは、自分も相手も両方大事にしている気持ちを伝える断り方です。
また、断る「理由」と「相手の役に立ちたい」気持ちをセットで伝えると、相手を大事に思っているが今はできない、ということを理解してもらえます。
断ることで相手をないがしろにしたわけではなく、相手を信頼しているからこそ自分の都合を伝えたのであって、断ることと、相手を大事に思う気持ちは別であることを知ってもらうのです。
逆に「自分の好き嫌いや気まぐれな感情で断っている」と受け取られてしまうと、断られた相手は「自分をないがしろにされた」と感じて信頼関係を損ねてしまいます。
●どこで線引き?
「断る・断らない」の線引きはどこでするとよいでしょう?
たとえば、かかる時間、締め切り、関わる人達などを細かく確認し、自分の役目をはっきりさせ、『見通しが立たないようなら断る』など、自分の中のルールを決めておくと線引きができます。
●断り方の例
もし「仕事を代わってくれ」と頼まれたときに、あなたも忙しくて代わってあげられない場合は、どのように断るとよいでしょう。
4つのポイントごとに例文を考えてみました(表1)。
表1:断り方の例(忙しいときに仕事を代わってと頼まれた場合)
例 | |
1.相手の気持ちを受け止めて謝る | それは困りましたね。 とても力になりたいのですが、申し訳ありません。 |
2.できない理由を伝える | 明日までに提出しなければならない仕事が入っているんです。 |
今月はずっと親の通院の送り迎えをしなくてはならなくて。 | |
3.相手のために代案を考える | ほかの部署の人に、聞いてみましょうか? |
私も、来月の当番の日なら、代わることができますよ。 | |
4.相手をねぎらい、 役に立ちたい気持ちを伝える |
いろんな仕事が回ってくるんですね。 ○○さんがあちこちから引っ張りだこなのも納得です。 この次はお役に立てるといいんですが。 |
ほかに私にできることはありますか? 今回はお役に立てませんでしたが、また何かあったら言ってくださいね。 |
●受援力と断る力
ここでも皆さんおなじみの「受援力(※)」を発揮して、
「断ることはそのくらい多忙な自分を理解してもらうこと」
「引き受けられない自分を受容してもらうこと」と考えてみてはどうでしょう?
受援力と断る力は、実は表裏一体なのです。
(※受援力:困っている人が他の人に直接助けを求めることができる力(2023年7月号)
●アサーティブネス
自分から言いにくい意見を伝えるための「アサーティブネス」という方法を使うと、相手も自分も大事にしながら、よい人間関係を続けることができます。
語呂合わせで覚える有名なDESC法(デスク法)で、
「お金貸して」と頼まれたときに断る例文を表にしてみました(表2)。
表2:DESC法(「お金貸して」と頼まれた場合)
意味 | 例 | ||
D | Describe | 説明する | 今月もまったく余裕がないんです。 |
E | Express | 表現する | 必要な支払いも遅れていて・・・。 |
S | Specify | 具体的な提案をする | 1000円なら貸せますが足りますか? 安いお店を知っていますが。 |
C | Choice | 選択 | または、経済的なやりくりについて、 ワーカーさんと一緒に考えるのもいいのでは? |
大事に思う姿勢を伝える
断られた相手のつらさを思うと断りにくくなりますが、長期的に見れば、自分が無理をするのではなく、自分も相手もいたわり思いやる姿勢のほうが、長く続く人間関係につながりますし、言いづらいことをあえて言うことにより、相手への信頼を示すことにもつながります。
相手を大事に思う姿勢を言葉で伝えること、これは、「断るスキル」をはじめとしたすべてのコミュニケーションの基本です。
○「こころの元気+」2023年12月号より
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