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第102回 人権(198号)
筆者:佐藤光展
医療ジャーナリスト
KP神奈川精神医療人権センター 顧問
人権とは
人権とは「誰もが生まれながらに持っている権利」とか、「人が人らしく生きていくために認められている権利」とか、いろいろな言い方が辞書などに書かれています。
どれも抽象的でわかりにくいのですが、具体的に列挙するとたくさんありすぎて収拾がつかないので、あいまいな表現にとどめているのかもしれません。
精神科医療と人権
精神科医療の現場では、この人権が侵害されがちです。
隔離や身体拘束は人権侵害の最たるものですが、精神科医療の枠内では「患者自身を守るため」などの理由で、精神保健指定医の判断で強い行動制限が一時的に認められることがあります。
その場合の要件はもちろん限定されていますが、安易に行って患者のこころをますます傷つけるケースがしばしば見られます。
拘束による死亡事故
身体拘束が原因とみられる死亡事故も起こっています。
石川県で、当時40歳の男性患者が拘束解除後に肺動脈血栓塞栓症(肺の動脈が血の固まりで詰まる病気)で死亡した問題では、2021年秋、身体拘束を決めた医師の判断が裁量を逸脱していて違法だとする判決が確定しました。
抜本的な医療改革を
行動制限の判断は常に厳格でなければなりませんが、看護スタッフなどの不足が過剰な隔離・拘束を生む一因でもあるので、精神科病院のあり方を含めた抜本的な精神科医療改革が求められます。
負の連鎖を止めるにも
「人が人らしく生きていく」ための良好な生活環境を得られず、心身の安全や安心がおびやかされ続けると、精神疾患を発症しやすくなります。
子どもの頃に、ひどいいじめを受けたり、親から虐待を受けたりした経験のある人は、精神疾患を発症しやすいことが知られています。
人権が守られない環境でのトラウマの積み重ねが、こころを蝕んでいくのです。
人権侵害によって精神疾患が生まれ、精神疾患によって人権侵害を受ける。
そしてますます孤立して精神疾患が悪化し、地域にも居場所がなくなっていく。
このような負の連鎖は絶対に止めなければいけません。
自分や周囲の人達の人権を守る。
これが精神疾患を予防する近道でもあります。