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第101回 受援力(197号)
筆者:吉田穂波
神奈川県立保健福祉大学 ヘルスイノベーション研究科 教授
▼出会い
私が「受援力:じゅえんりょく」という言葉に出会ったのは、東日本大震災後の被災地支援活動で自分がバーンアウトしてしまったときでした。
支援の対象が増え、手が回らなくなり、自分を責め、誰にも会いたくないと感じ、死んでしまいたいとさえ思うようになりました。
そのとき、「助けて」と言えず孤独死や餓死をする人達の気持ちが痛いほどわかったのです。
そして他者からのサポートを受け入れるスキル、「受援力」という言葉の力を知ったことで生きる希望が湧いてきました。
▼「受援力」とは
海外では、help-seekng behavior, consultingbehavior(援助要請行動)ともいわれ、
「困っている人が他の人に直接助けを求めることができる力」と定義されます(DePaulo, 1983)。
一方で「自己責任」を重視する現在の日本の社会的風潮の中、自殺願望のある人は受援を躊躇(ちゅうちょ)すること(Deane, Wilson, & Ciarrochi, 2001)、
支援を要請すると自尊心が傷つき、自分の無能力さを恥ずかしいと思うなどの心理的犠牲を伴うこと(高木・1998)、
支援を求める側が一段低い位置に置かれること(Shein, 2009)
などから、受援力の発揮がむずかしい現実があります。
しかし人に頼ることは頼られた側の喜びを引き出し、他人やコミュニティへの信頼を促して、人とつながるための「受縁力」とも言える大切なスキルです。
▼なぜ大切なのか
「何でも一人で解決できるようになりなさい」と教えられてきた方もいるかもしれません。
でも同じことを次世代に伝えてしまったら、彼らは苦しいときSOSを出せるでしょうか。
だからこそ受援力の出番です。
「がんばっているあなたは助けられていい、守られていい、一人で孤独に立ち向かわなくてもいい」と言えることが大切です。
支援を求める行動を認めることが、いつかどこかで支援を必要とする人の命を救うかもしれないのです。
▼断ることも受援力
人に頼ってこそ、助けを求める人の気持ちがわかります。
しかし、頼られたときに力になれない自分を受け入れ支えてもらうのも「受援力」の一つ。
できないときは断っていいのです。
①相手の気持ちを受け止めて謝り
②できない理由を伝え
③一緒に代案を考え
④相手をねぎらう
というステップを踏めば相手を大切にしているというメッセージが伝わります。
自分を優先していいのだと思える、それも受援力の効用の一つです。