特集1 睡眠と生活のリズム(193号)


特集1
睡眠と生活のリズム(193号)

こころの元気+2023年3月号より
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著者:駒田陽子
(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院)

 

睡眠学のこと

子ども達に大人気のシリーズ本でアニメ化もされている「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」(廣嶋玲子著・偕成社)に、“眠り貯金箱”という駄菓子が出てきます。
いつもより長く寝た分を貯金しておくことができ、眠る時間がない日には貯金箱から取り出した金貨チョコを食べると、睡眠をとったことになって活動できるという不思議でおもしろいお話です。

残念ながら、“眠り貯金箱”は開発されていませんが、誰もが毎日体験する「睡眠」という不思議な現象をさまざまな角度から研究するのが、「睡眠学」と呼ばれる分野です。

ストレスが多く不眠で悩む人が増えている社会では、
「よい眠りを得るために、どんなことをすればいいの?」
「眠れないとどんな影響が出るの?」
と聞かれることが増えています。

体内時計のこと

私達の体には体内時計が備わっていて、1日の生活リズムをつくりだしています。
朝になると目覚め、昼間は活動し、夜になると眠くなります。
もし外の様子がまったくわからず、時計がないような環境で過ごしたとしても、だいたい毎日同じような時間に睡眠が起こります。

だいたい同じ時間」であって「ぴったり同じ時間」ではないというのがおもしろい特徴です。
つまり、体内時計は少し後ろにずれやすい性質をもっているのです。
早寝早起きよりも夜更かし朝寝坊になりやすいことは皆さん経験があるのではないでしょうか。

●ずれを防ぐ

そのため、体内時計を毎日正しい時間にセットする必要があります。
毎日同じ時間に起きて明るい光を感じることや3食を規則正しくとることで、体内時計が後ろにずれるのを防ぐことができます。

1日の生活のパターンの中での睡眠の役割

ストレスで調子が出ないときや気持ちが落ちこんでいるときでも、一晩眠って朝起きると嫌な気持ちがやわらいでいることがあります。
また、「風邪のひき始めかな」と感じても、何日かよく眠るように気をつけると、風邪の症状が治まってきます。
このように睡眠には、私達の心や体を休ませ調子を整えて、元気にしてくれる役割があります。

 

よく眠ることを目的にするのではなく…

睡眠は心や体を回復させる役割があると聞くと、
「寝ることは大切だ。何とかよく眠らなくては」と思ってしまいがちです。

でも考えてみてください。
本当は、よく眠るために寝るのではなく、昼間元気に過ごすために眠るはずですね。
あるいは、昼間しっかり動いて疲れた結果として眠りが訪れます。

よく眠ることをめざして寝ようとすると、あせってしまい、逆につらくなってしまいます。
「眠らなくては!」と思いつめるのではなく、昼間の生活を充実させることに意識を向けるようにするとよいでしょう。

私はずっと睡眠の研究をしていますが、眠れない夜もあります。
そんなときは、「こんな状況だもの。眠れなくて当然だよね」と自分にいたわりの言葉をかけています。
眠ろう眠ろうとせずに、眠れなければそれで仕方ないと思うようにします。
そうすると少しですが、気が楽になります。

 

明るい場所で

また、眠れなくて日中に元気が出ないときや気持ちが落ちこみがちのときは「明るい場所で過ごす」ことを意識するとよいでしょう。
顔を青空のほうに向けて目から明るい光を入れると、落ちこみがちな気持ちが改善されます。

昼間に明るい場所で過ごすと、夜の時間帯にメラトニンという眠りを促してくれるホルモンが多く分泌されるようになります。
体内リズムも整って、昼間しっかり目覚め、夜ぐっすり眠れる体になることがわかっています。

 

こころの元気+2023年3月号より
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