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第94回 パパゲーノ効果(190号)
著者:坂根真理 (毎日新聞 記者)
▼ウェルテル効果とパパゲーノ効果
著名人が自殺をしたというニュースを見聞きして、死にたい気持ちが高まったことはありませんか?
自殺報道が引き金となり、心が苦しい人の希死念慮を強めてしまったり、連鎖的に自殺が増えてしまったりすることを「ウェルテル効果」といいます。
ゲーテの著書『若きウェルテルの悩み』の主人公ウェルテルの名前に由来します。
一方、メディア報道が自殺抑止につながる現象もあります。
「パパゲーノ効果」と呼ばれるものです。
モーツァルトのオペラ『魔笛』に登場する「パパゲーノ」にちなんで名づけられました。
パパゲーノは自殺を決意したものの、最終的に自殺を思いとどまります。
きびしい境遇などに絶望し、死ぬことを選択しようとする人に、その心の危機を乗り越える方策を示す報道は、自殺を抑止する効果があるとされています。
毎日新聞もパパゲーノ効果に着目し、
さまざまな事情から心の悩みや生きづらさをかかえ、「死にたい」と思うこともある当事者や、その支援者の方々に向けた情報を集積したサイト「こころの悩みSOS」を作成しました。
サイトでは、死にたい気持ちをかかえながらも、踏みとどまることができた人達を取材し、その体験談を掲載しています。
「死にたい」が「生きたい」に変わったのはなぜなのか。
そこには、生きるためのヒントがあります。
死にたいという気持ちは誰にでも湧き上がるものです。
そうした気持ちになったとき、他の方の体験は役に立ちます。
「こんなに苦しいのは私だけでないんだ」と思えるだけでも、心が楽になります。
体験記が、死にたいほどつらい気持ちをかかえた人達の薬のような役割を担っていくことを期待しています。
自殺のニュースをどう伝えればよいのか―。
報道することで自殺者が増えてしまうことに大きな葛藤を覚える記者は少なくありません。
WHO(世界保健機構)の自殺報道ガイドラインには、自殺を報じる記事には、必ず心をケアできる相談先の情報の提供などを定めていますが、相談先を明示しても自殺者数が増えてしまうことがつらくてたまりません。
「自殺があったことを伝えるだけでいいのか」という葛藤が私自身にもあり、今回の自社サイトを作ることにしました。
心の苦しみにそっと寄り添った報道をめざしていきます。