特集3 私にとってつながりとは(188号)


特集3
私にとってつながりとは(188
号)

こころの元気+2022年10月号より
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心の檻から出て

著者:ともみ
(精神対話士/ASK認定依存症予防教育アドバイザー)

 

私はアルコール依存症、摂食障害の回復のために自助グループのミーティングに参加しています。
でも、もともと人と関わることが苦手で、1人でいるほうが気楽だった私は、主治医からのすすめに、しぶしぶ「意味ある? 逆にストレスだ」というような気持ちで通い始めました。

しだいに足は遠のき、飲んでるときだけ正気を保てるような、食べ吐きや自傷をしているときだけ安心できるような、そんな世界にどっぷりとはまりこんでいきました。

ある日、仲間達に

その後、依存症専門病院に入院したときのことです。
院内ミーティングで自分のことを話すのがつらくて仕方なかったある日、休憩所で少し話すようになった入院仲間達に、かかえていたことをうちあけたくなりました。

かつて炊飯器に満杯に炊いたご飯にウイスキーをなみなみとぶっかけて、むせながら全部胃に流しこみ、それをトイレに全部吐いてなかったことにして、何食わぬ顔で夕食を作りながら主人の帰宅を待っていたという話でした。
私にとっては、悲惨で恥ずかしくてどうしようもない話で、震えながら話しました。
まわりにいた仲間も沈黙していました。

すると、いつも休憩所の隅で気むずしい顔をしている初老の仲間が急に、
「それがホントの、サケチャヅケ!」と明るく声を上げました。
もうその場は皆で大笑いになり、私までつられて笑いが止まらず、何年ぶりだろう、涙が出るほど笑っている自分がいました。

初めて

仲間のあたたかさに救われ、心を開くことのさわやかさを初めて感じられたような気がしました。
それから退院し、仲間達に会うこと自体が楽しみでミーティングに通うようになった頃、自分のお酒が止まっていることに気づきました。

心の檻から出て、人とつながることが私の癒しになりました。
私は私でいいと思える今、苦しみも喜びも分かちあえる場所で、一期一会の出会いを待っています。

 


子どもの立場の家族会
著者:加藤枝里
ひとりやないで! ~統合失調症の親と向き合う子向け家族会」代表/精神保健福祉士

 

私の母は統合失調症です。
母の体調のケアや服薬確認、掃除や洗濯などの家事を担う、私はいわゆる「ヤングケアラー」でした。

母が病気だと知ったのは幼稚園年長の頃。
病名を知ったとはいえ、病気のことを教えてくれる大人がまわりにいなかったため、当時6歳の私は、母の幻聴や妄想からくる発言が〝病気によるもの”という理解までに至らず、
「なんでそんな訳のわからないことを言うの?」と泣いている母に、自分も泣きながら訴えかけていたのが思い出されます。

今よりも精神疾患に対する偏見が強かった時代背景から、精神疾患の家族がいる悩みは〝家族だけで解決するもの”と思っていました。
人に頼ることのメリットやその術すら当時は思いつきませんでした。

多くの仲間との出会い

しかし大学3年生の頃、SNSを通じて、精神疾患の親がいる子ども向けの家族会「ひとりやないで!」を自ら立ち上げてからの9年間、自分と同じような経験をしてきた多くの仲間と出会いました。

子どもの立場だからこそ共感できるエピソードや悩みの共有、また、他の家族のお話を聞くことで〝当時の母はこんなつらさがあったのかもしれない”と想像をふくらますことができ、会の設立後は少しだけ母にやさしくなれた気がします。

会にご参加いただく方からは、
「今までの家族会は親向けの会が多かった中で、子どもの立場に限定した会が存在すること自体に安心感が得られる」という声や、
「『悩んでいるのは自分だけじゃない』と心の負担が減り、家族と向きあう原動力になっている」という声を聞きました。

社会的な孤立におちいりやすい子どもの立場のケアラーですが、同じ立場同士のつながりを持つことで、少しでも気持ちが前向きになれる。
会にはそんな力があるような気がします。

来年、会の活動が10年目を迎えようとしています。
今後もつながりを大切に活動していきたいです。

 

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