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第88回
Tokenism(トークニズム)(184号)
※「こころの元気+」2022年6月号より
著者:宇田川健
認定NPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ)代表理事
いろいろな場に、当事者、家族が参加する機会が増えてきました。
以前からあるのは、行政などの決定の場に当事者・家族の椅子を1つ設けるということです。
最近では、病院・事業所での当事者サービス提供者、学術集会、学術研究会、論文、雑誌など、社会的に当事者の参加・意見は重要だという文化、共通認識がない中で、
「ではここに当事者を入れておきましょう。当事者枠と家族枠を一席、作っておきましょう」
ということが進められてきています。
あらゆる面で当事者の参画は、進んでいくでしょう。
いいことだとは思います。
事業所等での報酬にピアサポート加算がついたことにより、ピアスタッフ、ピアサポーターとして賃金を得る人達も今後は増えていくことでしょう。
トークニズムの罠(わな)
ただ当事者参画が進むにつれ、海外で起きた罠を前もって知っておくといいと思います。
Tokenism(トークニズム)です。
当事者枠を一席は設けます→入ってください→でも、ものは言っちゃだめ・ここから先は入っちゃだめ・発言は無視します。
言い訳として作られる、当事者枠にはまる当事者という構造です。
言い訳ですので、ものを聞いてもらえません。
今後、トークニズムは目に見える形で起こっていきますし、すでに起こっています。
気がついて、違和感を覚えながら過ごしている人もいることでしょう。
今後、危惧(きぐ)されることは、(ピアスタッフ、ピアサポーターなどいろいろな呼び方がありますが)当事者サービス提供者がいる事業所、病院などで、
「うちはピアスタッフを雇用しているのでリカバリー志向サービスを提供しています」
という売り(セールストーク)に、当事者が利用されることです。
これを「ショーケースに入った当事者」と呼びます。
海外では実際にそういうことがたくさん起こり、当事者団体が問題視していました。
トークニズムを体験している当事者がショーケースから出て、ものを言うこと。
そのための組織文化が形成されるかどうかが勝負、という状況が日本でも起こり得ます。
組織や社会が、
「当事者は決定や話し合いの場にいてあたりまえ。当事者の経験や意見を聞けないあなたは、トークニズムの罠にはまっている」
と後の世代が安心して指摘できるような世の中になるように、傷つきながらも当事者が努力することが今は必要になります。