特集3 あなたに備わる相談力を引き出すには?(184号)


特集3
あなたに備わる相談力を引き出すには?(184号)

※「こころの元気+」2022年6月号より
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著者:吉田穂波
(神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科 教授)

 

思い出してみてください

皆さんが、これまで困ったときに助けてもらった経験を思い出してみてください。
どんな気持ちになりますか?

「あのときは本当に助かった。ありがたかった」
という気持ちと共に、相手への感謝の気持ちがこみあげてくるのではないでしょうか?

その感情は、間違いなく、あなたを幸せにし、あなたの健康状態を向上させます。
そして、助けられた、うれしかったという経験があると、他人を助けることにつながります。
「ありがとう」と言える経験をすることで、頼り合うことを肯定でき、社会循環的に「次は困っている誰かを助けてあげよう」と思えるからです。

それでは、実際に自分が助けてあげたときのことを思い出してみてください
(助けたかどうかわからなくても、少しは役立ったと思う程度でもかまいません)。
どんな気持ちになりますか?

困っている人の気持ちがわかり力になりたいと思う、そのことだけでも、その人に寄り添ったような、距離が近くなったような気がしたのではないかと思います。
そして、頼られた相手には、これまで以上に親近感が湧いたのではないでしょうか。

これは心理学で「ベンジャミン効果」という名で知られている、人間がもともと持つ心理です。
お世話をしてあげる、その行為が相手に対する好意的な感情を生み出すのです。

自分の弱みを見せること、苦手なことをさらけ出すことは、困っていればいるほど、大人になればなるほど、むずかしくなりますが、それを乗り越えたときこそ、他人の「助けたい」「役に立ちたい」「喜ばれたい」という気持ちを引き出せるのです。
誰かに頼らないことが強さなのではありません。
頼らないことは、自分自身に冷酷になることを意味します。

誰かに頼ることは弱さではありません。
それは、あなた自身の可能性を広げます。

頼られると、うれしい!
皆さんが、自分の体験からこの事実に気づくとき、皆さんの「頼ってはいけない」という足かせが外れ、
「相談してもいい」という気持ちになります。
これが、「相談力」アップのスタート地点です。

 

相談力・受援力(じゅえんりょく)とは何か?

私がこれらの言葉に初めて出会ったのは、東日本大震災の被災地支援のときでした。
こんなにつらい目に遭っているのに、じっと我慢している人々。
頼っていいのに、
「もっとたいへんな人がいるから」
「このぐらい辛抱しないと」
とかたくなに耐えていました。

被災地では支援と受援のミスマッチにより、誰かの役に立ちたいという気持ちやお金が活かされないことも多く、
被災者が「SOSを出す」重要性とむずかしさを痛感しました。

その私が、今度は支援活動の途中で過重労働からバーンアウトしてしまったのです。
被災地の方々に、「どうして頼ってくれないのだろう?」と思っていた私も、友人や知人に頼れなかった。
自分が苦しくなればなるほど、問題が大きくなればなるほど、遠慮してしまった…。

そのとき
「もし自分が人の役に立てるとすれば、人に頼る能力、つまり「受援力」の大切さを伝え、誰かが同じようにパンクしてしまうのを防ぐことではないか」
と思ったのです。

私達は小さな頃から「自分一人で何でもできるように」と自己責任論を教えられてきましたが、
むしろ、自分の味方をたくさん作るスキルを身につけるほうが大切です。

社会で生きていく私達に本当に必要なのは、
「困っていても助けを求めず一人でやりぬく」ことではなく、
「ここまでは一人でできるけれど、ここからは他の人の力を借りたほうがいい」という見きわめなのです。

 

相談力・受援力を高めるには

ここで「甘えじょうず・頼りじょうず」の人達の口癖やSOSの出し方からわかった
人に相談しやすくなる、とっておきの3つのキーワードをお伝えします。

①敬意
…あなただから頼りたい、あなただから相談したい、という特定の人あての尊敬と、相手の都合を気にかける姿勢

例「○○さんなら、こういうこと、ごぞんじかと思って相談したいのですが、今、ちょっといいですか?」

②存在承認
…あなたがここにいてくれてよかった、相談できてよかった、と相手の存在価値を認めること

例「時間をとってくださり、助かります」
「ここでご相談できて、よかったです」

③感謝
…話を聞いてもらっただけでもありがたい、と、解決する・しないに関係なく、相談できただけで感謝する気持ち

皆さんは、これらを
KSK…敬意、存在承認、感謝
と語呂合わせで覚えておくとよいのではないでしょうか。

相談するとき、つい申し訳なさが先に出てしまうかもしれませんが、相手が最もうれしいのは、「感謝」の気持ちです。
感謝の気持ちをこめながら相談することで、今は相手に何も恩返しができなくても、それで十分なのです。

 

あなたの相談力はどれぐらい?

ここで、セルフワークをしてみましょう(表1をチェック)。

どうでしたか?

相談する際の口癖、無意識のうちに抱いてしまう感情、人からの評価について自覚してみると、自分の相談力=受援力を知るきっかけとなります。

「自分が頼るときはマイナスイメージだけれど、頼られる側に立つとポジティブイメージになるな」
と思う方もいるかもしれません。

もともと、誰もが人に頼る力を持っていました。
たとえば、赤ちゃんだったときは、まわりの人から食べさせてもらい育ててもらうのがあたりまえだったはずです。

その後「身の回りのことは何でも一人でするのが一人前」という周囲の雰囲気を感じ取り、
一人でできないのは、甘えであり、弱さであり、未熟さであるような錯覚におちいってしまったのではないでしょうか。

最初はできないことでも、手伝ってもらって、教えてもらって、そのうち自分でできるようになります。
自転車に乗るのもまず乗り方を教わり、そのうち自分だけでできるようになります。

自分の弱みを見せても、拒絶されない、否定されない、自分らしく振る舞っていい、情けない姿を見せてもいいという姿勢を見せることで、周囲の人と心理的安全性の高い場ができます。
ですから、頼るほうと頼られるほうと、両方ともメリットがあるような頼り方を知っていれば、みんな喜んで頼れるようになります。

 

支援者も受援力の低い人が多い?

支援者は、
「人を助けたい」と思う気持ちが強いので、
「人の役に立てない自分」を認められず、どうしても頭ではわかっているけど頼れない、頼ってみたけど続かない、という状況におちいりがちです。

私も医師として、患者さんの役に立てる仕事に誇りを持っていました。
その私が、自分や家族のトラブルにより、人に助けてもらう存在となったとき、自己肯定感がとことん下がってしまったのを覚えています。
支援者の立場にある人のほうが、人にSOSを出すことがむずかしいのです。

 

支援者は頼りじょうずに

でも、支援する人にも受援力は必要です。
自分がいつも完璧でなくてもいいのです。
「自分はこれでいい」と受け入れ、頼る力を発揮すること。

いつも助けてもらっている人から頼ってもらえた!
きっと頼られた側もうれしいことでしょう。

支援者が、支援する相手にいつも寄り添えるわけではありません。
相手が受援力を身につけ自分らしく生きていくためにも、支援者がお手本になり、受援力を発揮できれば、相手の「頼る力」が高まります。
支援者も頼りじょうずをめざしてはいかがでしょうか。

同僚、友人、家族などとの間で「相談力=受援力」を話題にすることで、
「実は、私も昔、こんな経験をしてね…」
と、お互い共感できることがあるかもしれません。

 

※「こころの元気+」2022年6月号より
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