連載:減薬という旅の彼方に2 ※連載について→コチラ
第5回
抗うつ薬について(1)※「こころの元気+」2021年9月号より
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著者:小林和人(特定医療法人山容会理事長・山容病院院長)
抗うつ薬は、うつ病以外にも、たとえば強迫性障害、パニック障害、社交不安障害などに用いられます。
つまり抗うつ薬が出されているからといって、うつ病とは限りません。
ただ、ここでは話をわかりやすくするため、うつ病に対する抗うつ薬という前提で進めます。
うつ病と抗うつ薬
うつ病が軽症の場合、抗うつ薬による薬物療法は必須ではありません。
これは各種ガイドラインにはっきり記載されていることです。
たとえば私の外来では、軽症うつ病に対して生活指導・ストレスの軽減などを指導したうえで、睡眠導入薬だけを出して(あるいは何も薬を出さずに)治療することがあります。
そのような方法で改善するケースは多くみられます。
中等症、あるいは重症の場合は抗うつ薬が必要です。
ここで大事なのは
最初は皆さん軽症で、そこから重症になっていく、治療が進めば重症から軽症化していくというように、治療の段階に応じてその人の状態が変化するということです。
つまり、うつ病が改善して軽症になったら減薬を考えればよいのです。
その後中止を視野に入れます。
何か月でやめるとか、何ミリグラムずつ減らすとか、明確な基準は今のところありません。
それがむずかしいところです。
継続か中止か
私は外来で、死にたい気持ちが強まり自殺未遂をしたなどの入院を経験した人達には、量を減らして抗うつ薬を続けることをすすめてきました。
めやすとしては、抗うつ薬を(2種類以上の場合は)1種類にしぼり、最も多くのんでいた頃の半分の量で続けます。
逆にいえば、入院したことがなく外来でずっとやってきた人から、
「よくなったので薬をやめたい」
と相談があった場合は、一緒になって考えて、基本的には抗うつ薬を減量後に中止します。
中止してから再び必要になる場合もありますので、通院はしばらく続けてもらうケースがほとんどです。
長期的にみて、抗うつ薬を継続すべきか、中止すべきか、まだ結論は出ていないと思います。
しかし維持量をなるべく少なくできれば、それに越したことはありません。
特に女性は妊娠の関係で、抗うつ薬を急に中止せざるを得ないケースがあります。
後述する離脱症候群を起こさないためにも、減らせるときに日頃からコツコツと減らしておくことが大切です。
実は抗うつ薬を続けることによるリスク、長期使用による問題もあります。
慢性的な投与によって、
情動の不安定化、
気分不快感、
感情のにぶさ
が生じることが指摘されています。
おそらくその中には治療抵抗性うつ病が混じっています。
つまり、抗うつ薬を長くのみ続けた影響か、うつ病が(治療抵抗性うつ病のため)よくなっていないからなのかを見分けるのがむずかしいわけです。
いずれにしても抗うつ薬をのみ続けることのメリットが落ちていますので、治療の見直しが必要です。
これらのことから「何となく」抗うつ薬をのみ続けることは避けるべきと考えられます。
なお私自身の現在の考えは、過去に入院するほど具合が悪かった人も、何年も経過良好であれば、患者さんと抗うつ薬中止について相談する方向へと少しずつですが変わってきています。
離脱症候群
急に中止すると離脱症候群といって、
吐き気
めまい
ふらつき
過覚醒(過敏さ)
が起こる可能性があります。
4週間以上継続している抗うつ薬を突然やめると10日以内に出現するといわれます。
これを経験するとやめるのが怖くなり、長期継続の一因となります。
とにかくゆっくり減らすことが大切です。
減薬のタイミング
最後に、これは抗うつ薬に限りませんが、薬を減らすタイミングは大切です。
わざわざストレスが大きいとき、過労で疲れているときなどに減らす必要はありません。
調子がよいとき、あまり忙しくないストレスが軽いときに減らすようにしましょう。
食事や睡眠も大切です。
次回は抗うつ薬の種類に触れながら、減薬の話をします。
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こばやしかずと
●山形県酒田市に住む精神科医です。
多剤併用を見過ごせず縁のない土地へ移り、理事長、院長、臨床医の三役に全力で取り組んでいます。
「のむ治療から学ぶ治療へ」を掲げて、依存症治療を積極的に展開し、診療の幅を広げています。
趣味はマウンテンバイク、四児の父です。