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第87回
ニューロモデュレーション(183号)
著者:山﨑龍一(東京慈恵会医科大学 精神医学講座)
▼ニューロモデュレーション
精神疾患の治療には一般的に薬物療法や精神療法などがよく用いられますが、これらの治療だけでは十分に症状が改善しないことも少なくありません。
そんな中、電気や磁気を用いて脳の神経を直接刺激することで症状を緩和できる可能性が、世界中のさまざまな研究からわかってきました。
このように神経を刺激してその働きに変化を加えることを「ニューロモデュレーション」と呼びます。
精神科の領域では、
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)(はんぷくけいずがいじきしげきりょうほう)や
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)(けいとうがいちょくりゅうでんきしげき)
などを指すことが多いですが、
従来から精神科や神経内科領域で実施されていた
電気けいれん療法(ECT)や
脳深部刺激療法(DBS)
なども含まれます。
▼国内における現状
精神科領域で保険診療として行われている(保険が効く)ニューロモデュレーションは、
比較的重い症状のある方へのECT(電気けいれん療法)と、
抗うつ薬で十分な治療効果が得られないうつ病の方に対するrTMS療法(反復経頭蓋磁気刺激療法)
です。
後者のrTMS療法は、2019年から保険診療が開始された比較的新しい治療ですが、
実施にさまざまな条件があるため、導入している医療機関は入院病床のある比較的大きな病院に限られます。
一方、自由診療(全額自己負担)でrTMS療法を実施しているクリニックが大都市圏を中心に増加しています。
自由診療では、治療方法や機器が保険診療と異なる場合が多く、本当にその治療を受けることが妥当なのか、科学的な根拠をもとに慎重に検討する必要があります。
▼今後の課題
ニューロモデュレーションは、今後も新しい治療の開発が期待されている分野であり、すでに実用化されている治療についても、より効率的な治療条件や新たな機器の開発が進められています。
しかし、現在のところ決して万能な治療ではないのが事実です。
ともすると過剰な期待をあおるような記事をインターネットで見かけますが、学会や専門家など適切なソースから情報を得ることが重要です。
また、rTMS療法はECTと比較して保険診療を実施している医療機関が少なく、どの医療機関でも実際に治療を受けるまでの待ち時間が生じているようです。
適応と判断された方が、すみやかに治療を受けられる体制づくりが求められていると思います。