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第86回
学校のメンタルヘルス教育
※「こころの元気+」2022年4月号より
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著者:小塩靖崇(おじおやすたか)
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部 研究員)
新学習指導要領では、学校で扱うメンタルヘルス教育の内容の追加拡充がはかられています。
特に高校で「精神疾患の予防と回復」が追加されることには、注目が集まっています。
この新学習指導要領での授業は、令和4年度(2022年度)から開始されます。
削除と復活の理由
学校で精神疾患を扱うのは約40年ぶりのことです。
過去には精神疾患への偏見を助長するような記述が含まれ、精神保健の専門家や家族会の抗議により、その内容が修正されたことがありました。
その後授業時間の短縮に伴い、精神疾患は他の疾患や項目、病気やケガを防ぐ意義や方法を学ぶことよりも優先順位が低いとされ、精神疾患に関する内容はすべて削除されました。
それ以降、精神疾患を授業で扱う必要性やそのあり方について専門家や家族会などが継続的に要望を出してきており、今回、学校教育に精神疾患の内容が復活したことには、大きな期待が寄せられています。
学校で学ぶねらい
注意したいのは、学校で精神疾患を学ぶねらいは、診断分類や治療を知る医学教育ではなく、生涯を通じた健康づくりやそのための社会環境の整備を目的とする健康教育としての学習だということです。
高校保健の目標は、
「保健の見方・考え方を働かせ、合理的、計画的な解決に向けた学習過程を通して、生涯を通じて人々が自らの健康や環境を適切に管理し、改善していくための資質・能力を育成する」
です。
学ぶことで、予防や早期発見、早期受診への理解を高めるだけでなく、回復の可能性も合わせて理解し、課題に向き合う人々への配慮や社会のあり方について、自ら考え行動する力を獲得することが期待されています。
今後の期待と課題
公教育で精神疾患について学習する意義は、すべての高校生が、精神疾患とその対処について必要な知識を獲得することでしょう。
また、高校生はこれからの社会を作る世代であることを踏まえると、将来的に社会における精神疾患への認識が変わることが期待されます。
さらには、精神疾患に関心を持ち、地域でも精神疾患を経験した人と交流する機会が増えることが望まれます。
この改革を機に、大人には若者の心の健康課題に関心を持ち、対応する力が求められ、さらに地域ケアの推進のため、新しいケアシステムの開発が望まれます。