特集2 さまざまなピアサポート


特集2 さまざまなピアサポート
インフォーマルなピアサポートからフォーマルなピアサポートまで

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著者:相川章子(聖学院大学)あいかわあやこ

 

ピアサポートとは?

皆さんは「ピアサポート」と聞いて、どんなことをイメージしますか?
新しい「支援方法(技術)」をイメージされる方、「ピアスタッフ」や「ピアサポーター」を思い浮かべる方もいるかもしれません。

ピア(peer)とは「(年齢・地位・能力などが)同等の者・同僚、仲間」を意味します。
たとえば、同じ大学の学生同士や同じ趣味の人同士など、くくり方次第で私達の身近に無限の「ピア」が存在します。
「精神障害のある人」というくくりもあれば、「精神保健福祉に関わる人」とすれば、障害のある本人や家族、支援者、ボランティアも含め「ピア」となります。
「ピア」というときには、どういう共通の経験でくくっているかが問われます。
サポート(support)は訳すと「支援・支える」ですが、「ピア」とくっついた場合は「支え合う」となります。

故に「ピアサポート」の定義は「同様の経験をしている対等な仲間同士の支え合いの営みのすべて」となり、「対等性」が鍵となります。

 

ピアサポートのルーツ

精神保健福祉領域でのピアサポートの起源は、アメリカ合衆国で1935年に飲酒問題を解決したいと願う相互援助の集まりとしての「AA(Alcoholics Anonymous・匿名のアルコール依存症者達)とされています。
日本においては、アメリカ生まれのAAを参考に発足した「断酒会」がフォーマルなピアサポートの起源といえます(→特集7へ)。
断酒会やAAを代表とする当事者会は自助(セルフヘルプ)グループと呼ばれ、専門職主導の支援とは異なる新しい選択肢として、重要な役割を果たしてきました。

自助グループと同時に、1960年代からは当事者運動が盛んになります。

1990年代からはピアカウンセリングが広がりを見せ、近年ではピアサポート(グループ)という呼称へと変遷(へんせん)してきました。
ピアサポーターやピアスタッフとして活動する人も急増しています。

このように当事者を主体とした活動は、断酒会やAAなどの自助グループ、当事者運動、そしてピアサポート、ピアスタッフと、言葉と共にその内実も変遷してきています。

 

ピアサポートのさまざまなありよう

ピアサポートはとても多義的で、さまざまなありようがあります(図1参照)。

1.自然発生的でインフォーマルなピアサポート
アフター5にお茶をしたり、友人に電話で悩みを打ち明けたりなど、身近で自然発生的で、気楽なつながりです。

2.意図的でフォーマルなピアサポート
人に言いにくい経験や隠さなければならないと思う経験は、なかなか同様の経験をしている人と出会うことも語り合うこともできないので、当事者会や家族会のように看板を掲げて意図的に集まったグループをいいます。
そこでは同様の経験をしている人に出会うことができ、安心して言いづらい経験を語ることができます。

3.仕事としてのピアサポート
自身の経験を生かして、同様の経験のある方とピアサポートによって共にリカバリーの道を歩もうとする人々で、ピアサポーターやピアスタッフと呼ばれています。
彼らはピアサポートの価値を生かして、支援の現場などで働き、金銭的な報酬を得ています(→特集6へ)。

●すべてピアサポート
これらをすべて「ピアサポート」という1つの単語で表現していますので、結果的に「ピア」という言葉がさまざまな意味合いで使用され、混乱を招いているともいえます(→特集6へ)。
なお、すべてのピアサポートに共通することは、対等で安心で安全な、居心地のよい関係性によって成り立っていることです。

なぜ今、ピアサポートが注目されているのか?

「ピアサポート」は決して新しい理論や技術ではなく、誰もが体感したことのある身近なものです。
またピアスタッフやピアサポーターは、「ピアサポート」の価値を生かして働く人々であり、ピアサポートの1つのありようといえます。

なぜ今「ピアサポート」が注目されているのでしょう?
私は多くの人が「生きにくさ」を感じているからだと思っています。
「生きにくさ」の1つに、「自分の経験をありのままに語れない」ことがあります。
多様性(ダイバーシティー)や共生社会が強調されるのも、その裏返しではないでしょうか。

「ピアサポート」の接着剤は「経験の語り」です。
そこで広がる世界は支援するでもされるでもない、心地よい世界です。
つまり「ピアサポート」は、ありのままに経験を語れるような社会を創ることです。
そのことが1人ひとりのリカバリーにつながります。
これらの世界を私達は、
「ピアサポート文化」と呼んでいます(→特集3へ)。

「ピアサポートセンターそら」(→特集9へ)では、当事者も支援者も、子どもも高齢者も、障害のある人もない人も、まったくもって雑多にそれぞれが互いを認め合い、尊重し合う場が創られています。
なぜか居心地よく、笑みがあふれ、おだやかな気持ちになり、気づくと元気になっています。
まさに「ピアサポート文化」が息づいている場です。

毎年10月第3木曜日は「世界ピアサポートデー」

国際ピアサポーター協会(iNAPS;International Association of Peer Supporters, 現在N.A.P.S.)では、毎年10月第3木曜日を「世界ピアサポートデー」(GPSCD;Global Peer Support Celebration Day)としています。
これは、ピア同士で互いの貢献を認め合い、成功を祝うこと、それぞれの組織等コミュニティで、ピア活動を認め、祝うことを目的としています。
2021年の「世界ピアサポートデー」は10月21日(木)です。
「今こそ考えるピアサポート 〜人と人とが支え合うことの意味〜」をテーマに開催される今年の「リカバリー全国フォーラム2021」はその数日前の10月16・17日です!

世界中の皆さんとピアサポートデーでつながって、ピアサポート文化を広げていきましょう!

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