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第78回
精神科特例
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著者:原昌平
(NPO法人 大阪精神医療人権センター理事/相談室ぱどる 代表)
精神科特例とは
精神科の病棟は一般の病棟より医師や看護職員が少なくてもよい。
そんなルールを国が定めています。
「精神科特例」とは、そのことです。
手厚い医療にはスタッフがたくさん必要ですよね。
人数が少ないと医療の質が低くなります。
そこで病院のスタッフ配置の標準数(最低基準)を医療法施行規則が定めています。
医師は3分の1
具体的な基準は表のとおりで、その病院にある病床の種類ごとに必要な人数を計算して合計し、外来患者数も加味して、病院全体の必要人数を出します。
パート職員は勤務時間数をもとに常勤人数に換算します。
▼表:医療法施行規則が定めているスタッフ配置の最低基準
(前年度の平均入院患者数に対する常勤換算の職員数)
一般 病床 |
精神 病床 |
療養 病床 |
結核 病床 |
感染症 病床 |
特定機能病院 (大学病院等) |
|
医師 | 16:1 | 48:1 | 48:1 | 16:1 | 16:1 | 8:1 |
看護職員 | 3:1 | 4:1 | 4:1 | 4:1 | 3:1 | 2:1 |
看護補助者 | - | - | 4:1 | - | - | - |
薬剤師 | 70:1 | 150:1 | 150:1 | 70:1 | 70:1 | 30:1 |
※総合病院の精神病床は、一般病床と同じ配置基準
一般病床では医師は入院患者16人あたり1人、看護職員は入院患者3人に1人。
一方、精神病床では医師は48人に1人、看護職員は4人に1人です。
一般病床に比べて医師は3分の1、看護職員は75%でかまわない。
薬剤師も半分未満です。
慢性の病状で長期入院する人向けの療養病床と似た水準です。
人手不足は安易な隔離、拘束、外出制限といった権利侵害にもつながります。
収容主義のなごり
精神科は少ない職員数でかまわないとする特例は、厚生事務次官の1950年の通達と58年の通知が打ち出し、民間精神病院がどんどん増える一因となりました。
当時の精神病院は医療というより、生涯収容の場とみなされていました。
2000年の医療法改正で精神病床の配置基準も施行規則に組みこまれ、法的には特例ではなく本則になりました。
精神科の患者には人手をかけなくてよいと考える差別が公式な形になって続いているわけです。
ベッドを減らす
実際に病棟で働くスタッフの数は、医療法の最低基準とは限りません。
別に診療報酬上の基準があり、看護職員が多い病棟ほど入院料のランクが上がります。
それでも全体として精神科の職員配置は手薄です。
すぐに一般病床並みにしようとしても、医師や看護職員が足りません。
配置密度を高めて医療の質を上げるには、入院ベッドの数を減らすことが肝心でしょう。