京都アニメーション放火事件の報道について


(2019年7月20日)

 7月18日に京都アニメーションで起きた放火事件について、亡くなられた方々に対し深く哀悼の意を表し、また被害にあわれた方の一日も早い回復を願っております。

 この事件で身柄を確保された男性について、一部報道では、「男は精神的な疾患がある」または「精神障害がある」と報じられています。

 私たちは、事件の背景・動機などの詳細が不明な段階で、あたかも精神疾患とこの犯罪を結び付ける可能性のある報道が今後も続くことがあるのではと、大きな危惧を抱いております。

「精神疾患がある」「精神障害がある」といった部分記述によって、(以下、病歴報道)には「精神疾患」が事件の原因であり、動機であるとの印象を与えてしまいます。その結果、「精神病を持つ人(精神障害者)は、みな危険」という画一的なイメージ(=偏見)を助長してしまうことに、つながることは、過去の例から見て明らかです。

 またこの事件に関してはアニメーション会社への放火ということで、世界中の人から支援の声が上がっている中で、今回の病歴報道により、世界中に精神病を持った人(精神障害者)は皆危険という偏見の助長を発信してしまう可能性すらあるのではないかと、大きな危惧を抱いております。

 今回の事件では、すでに男性の氏名も公表されています。事件と精神疾患の関連性が確認できていないのであれば、精神疾患のことを伝える必要性はないと思われます。

 平成30年の犯罪白書によると、日本における、刑法犯の検挙された人数の総数のうち、精神障害者等の比率は、1.5%であり、また報告では多いとされる放火は検挙された人数のうちの18.7%であると報告されています。

 つまり、精神障害を持たない人の犯罪の比率は、98.5%であり、放火に関しては、81.3%です。このようなデータは、並列して報道されることが決してありません。

 また、精神疾患との関係が犯罪そのものと、明らかでない時点での、病歴報道されることについては、私たち精神疾患を持つものにとって、とても傷つくことになり、今回の病歴報道についてもも、とにかく情報を集めてとにかく早く報道しようという報道機関の姿勢が垣間見られ、私たち精神障害者に対する偏見の助長についての考察などはされていないと思われます。

 2001年に発生した大阪教育大学付属池田小学校事件では、精神障害者を装った犯人(宅間元死刑囚)による事件が、精神障害による犯行として大々的に報道され、精神障害の当事者に多大な報道被害をもたらしました(添付の調査報告書をご参照ください)。

平成29年度の厚生労働省調査によると、約419.3万人の方が精神科に入院・通院しています(外来患者数389.1万人、入院患者数30.2万人)
http://www.mhlw-houkatsucare-ikou.jp/guide/h30-cccsguideline-p1.pdf
また、精神障害者保健福祉手帳だけでも約99.1万人が取得しております(「H29衛生行政報告例の概況」) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/17/dl/gaikyo.pdf

こうした人たちの立場や気持ちにも配慮した記事づくりをお願いいたします。

NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ

※添付の調査報告書:
大阪池田小事件による報道被害に関する調査. 季刊 地域精神保健福祉情報 Review 10巻2号(通算38号), 2002, pp.43-45.
(2001年6月に起きた大阪教育大学附属池田小学校事件が、精神疾患をもつ当事者および家族に与えた影響の調査報告)