薬物療法とじょうずにつきあうために(医師)


こころの元気+ 2012年3月号特集より →「こころの元気+」とは


特集5
薬物療法とじょうずにつきあうために

久留米大学医学部神経精神医学講座講師
富田克

精神科の薬物療法とつきあっていくのは、なかなか難儀なものです。今回は、精神科の薬物療法とつきあっていくために大切なことを、ちょっと基本にかえって考えてみようと思います。

その薬、なぜ処方されたのか?

精神科を受診される患者さんは、何かしらの困りごとがあります。この「困りごと」の解決に、薬が役に立つ部分があると医師が考えた場合、薬が処方されます。
ここで「役に立つ」とは、薬を使うことでその部分に対し自然経過に勝る改善効果が見込めて、かつ薬の有用性が危険性に勝るということです。
そう判断して薬は処方されますが、
「悩みの解決のために相談に行ったのに薬?」
という疑問を持たれる患者さんもおられます。医師も、悩みが薬で吹き飛ぶとは思っていません。
悩みがなかなか解決しないのは、その人の解決への力を病気がじゃましているからだと判断し、その病気に対し自然経過に勝る効果のある薬の服用をすすめます。
でも、そんなことは説明されなければわかりませんよね。ボタンは、最初にかけちがうと正すのがたいへんです。
この薬が自分にとって今後どんな役に立つのか、理解を最初にちゃんとかみ合わせておくことは非常に大切です。

その薬、効いていますか?

実際に薬物療法が行われると、その結果はいくつかのパターンに分かれてきます。

①効果があり副作用はない

②効果があるが副作用も出ている

③効果が出ておらず副作用だけ出ている

④効果も副作用も何もない

です。そうすると、③④をそのまま続けても、時間と費用のむだであることは明らかです。①の薬物療法は最善です。問題は②です。
この場合、「効いている、またはのめば高い効果が見込まれる」のですから、他の薬に変更したり副作用止めを用いたりと、あらゆる方法で①の最善の薬物療法になんとか近づけようとがんばります。
このときの手がかりがエビデンス(科学研究による根拠)で、多くの医師がそれを考慮した薬物療法を行っています。

しかし患者さんにとって大切なのは、自分の薬の処方に「どの程度エビデンスがあるか」より、まずは「ちゃんと効いてくれているか」です。続けられる薬物療法は、①②しかないわけですから。
お薬が処方されると、薬局から薬剤情報提供書をもらうことができますが、安全性情報に比べて有効性情報が非常に少ないのが一般的です。
ですから、そのお薬がどのような効果を期待して処方され、そこにちゃんと効いているか(もちろん副作用で困っていないかも含めて)医師との細やかな対話が必要になります。

さまざまな情報の共有

どんなに最善の薬物療法でも、のまなければ効きません。
のみ忘れが多い、副作用がいやで間引いてのんでいるなどの理由で病気が再燃しているのに、そのことを医師が知らないと、処方される薬は増えてしまいます。

「①どの程度きちんと薬がのめているか」をきちんと伝えることは、効果的な薬物療法の最も大事なポイントです。
この他にも、
②他の病院でもらっている薬、
③毎日の飲酒量、
④心臓病や糖尿病の有無、
⑤心臓病や糖尿病の親族の有無などは、薬物療法に大切ですが漏れの起こりやすい情報です。聞かれたことがなければ積極的に伝えてみましょう。

薬物療法とじょうずにつきあえるかどうかは、医師と薬物療法についてどれだけ話し合ったかということです。毎回の診察で、少しずつ大切なお薬の話をつづけてほしいと思います。