統合失調症の初期家族講座事業


(平成23年度福祉医療機構助成事業)

Ⅰ.事業の目的

統合失調症の患者家族に対する心理教育は、患者本人に対する社会生活技能訓練よりも再発率を低下させるという調査結果が公表されており、薬物療法に次いで有効性の高いものと評価されています。
この事業では、統合失調症の発病直後の混乱と不安の渦中にある家族を対象にして、心理教育の手法を用いて研修会を実施するものです。
この研修会は、2泊3日の合宿スタイルで行います。この研修会の目的は3つあります。それは、①将来に対する不安をなくしていくために、統合失調症に対して正しい理解を深め、回復力を高める家族になること、②他のご家族と交流を深めることで、家族だけで不安を抱え込まないようになること、③同じ立場の人たちと悩みを共有することで、自分自身の心のゆとりの大切さを意識できるようになることです。
全国普及のためのモデル事業として、医療福祉機構からの助成金により実施しました。

Ⅱ.事業の概要

(1) 事業の実施体制等
担当事務局会議を開催し、実施場所、プログラム、募集方法等について、検討しました。
統合失調症の初期家族は社会的に孤立している場合が多いので、募集方法については、医療機関や行政機関にチラシを配布して、対象者への配布を依頼しました。
また開催地の精神障害者家族会との共催とし、参加者に家族会の存在を知ってもらい、講座受講後に家族会につながるようにしました。
また、各会場での座開始の冒頭に家族会の方にご挨拶をしていただいたり、先輩の家族の体験談を語っていただくなど、家族の方たちに焦点を当てた内容にしました。病気の知識や対応方法などは、一方的な講義ではなく、ワークショップ形式で進めるようにして、参加者が主体的に参加できるよう配慮しました。
(2) 事業の内容
統合失調症の初期家族(発病後5年以内程度)を対象にして、2泊3日の合宿形式での講座を開催しました。全国4か所の会場を選定し、開催地の精神障害者家族会連合会との共催としました。
開催案内は、4か所統一したものを作成し、全国の精神科病院、精神科診療所、都道府県・市町村障害福祉担当課、精神障害者家族会に送付しました。
各会場の参加者は、20~28名程度でした。当初想定していたのは50名定員でしたので、予定よりは少ない参加者でしたが、その分、参加者同士の交流や講師への質疑応答などが充分できたため、参加者の方たちの満足度は非常に高いものがありました。
プログラムは、統合失調症の基礎知識について5時間、当事者への対応方法について5時間、先輩家族の体験発表を2時間、グループワークを5時間行いました。
4~5名1室の相部屋方式の合宿としたため、プログラム終了後も、食事の時間や、お風呂の時間、休憩時間など、あらゆる時間や場所で参加者が同士の語り合いがインフォーマルに行われ、予想以上に仲間意識の涵養に効果があったようです。
(3) 事業の成果等
参加した家族が、初日とは比べようがないほど明るい顔になり、エンパワメントされた様子が明らかでした。
参加者同士で名簿を作成したり、終了後集まったり、連絡を取りあうといったピアサポートが自然発生的に行われました。参加者の満足度は高く、初期化家族を対象とした情報提供・教育活動の意義が明らかになりました。この活動を続けていくことで、全国的に初期家族への情報提供・教育活動が広がることが期待されます。
Ⅲ.事業の内容

1.開催会場・日程
下記の2泊3日の日程にて計4会場で同内容の講座を開催しました
・2010年12月18日(土)-20日(月) 長野県千曲市「ホテル晴山」
・2011年1月28日(金)-30日(日)  京都府京都市「アピカルイン京都」
・2011年2月19日(土)-21日(月)  千葉県勝浦市「かんぽの宿勝浦」
・2011年3月4日(金)-6日(日)   山形県上山市「月岡ホテル」

2.対象者
統合失調症発症して概ね5年以内の患者家族です(各会場 50名定員)

3.広報
全会場の情報を掲載した開催案内を、下記の計8,475か所に各3部(精神科病院のみ9部)配布し、参加者の募集を行いました。不足分については追加依頼をFAXにて受付、順次追加分の送付を行いました。
・地域活動支援センター       437か所
・家族会(連合会を含む)      1,611か所
・精神科病院・診療所        3,850か所
・地方自治体            1,843か所
・精神保健福祉センター・保健所)  734か所

4.実施プログラム

下記の共通プログラムにて、各会場を開催しました。なお、このプログラムは平成18年に開催された全国精神障害者家族会連合会主催の「統合失調症の初期家族講座」を参考に作成しました。
【第1日目】
13:00-18:00 「統合失調症の病気について知る」(途中休憩を含む)
統合失調の特徴、薬についての基礎知識や対応方法を学び、正しい理解を深める
・長野会場:益子雅笛(たけだメンタルクリニック 精神科医)
・京都会場:佐竹直子(国立国際医療研究センター国府台病院 精神科医)
・千葉会場:伊藤順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長)
・山形会場:伊藤順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長)

【第2日目】
9:00-15:15 「統合失調症 家族の役割」(途中休憩を含む)
家族自身が交流を深め、抱え込まない家族になること、家族のできること・できないことについての知識を学ぶ
講師: 高森信子(SSTリーダー)
15:30-16:30 「家族の体験談~先輩家族から~」
先輩家族から、家族会やピア活動を含む体験談を聞き、家族同士の交流を深める
・長野会場:貫井信夫(ファーム栗の木家族会)
・京都会場:岡田久実子(もくせい家族会)
佐藤美樹子(もくせい家族会)
・千葉会場:飯塚壽美(もくせい家族会)
貫井信夫(ファーム栗の木家族会)
・山形会場:佐藤美樹子(もくせい家族会)
19:00-21:00 「お互いの体験を語り合おう~グループに分かれて~」
家族同士お互いの体験を語り合い、自分自身の心のゆとりの大切さを意識できるようになることを目標にする
・京都会場:中村由嘉子(名古屋大学大学院)
・山形会場:横山恵子氏(埼玉県立大学)

【第3日目】
10:00-12:00 「グループを越えた共有~体験を語り合ってみて~」
3日間の講座を終えての感想などの共有をはかる
・京都会場:中村由嘉子(名古屋大学大学院)
・山形会場:横山恵子氏(埼玉県立大学)

5.インターネットセミナー:セミナー動画配信
当会ホームページで、各講演を編集して収載。ストリーミング配信を行っています。

「統合失調症の病気について知る」
・益子雅笛(たけだメンタルクリニック 精神科医)
・伊藤順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長)

「統合失調症 家族の役割」
・高森信子(SSTリーダー)

「家族の体験談~先輩家族から~」
・貫井信夫(ファーム栗の木家族会)
・飯塚壽美(もくせい家族会)

6.各会場参加者人数

・長野会場 18名
・京都会場 28名
・千葉会場 25名
・山形会場 16名
7.参加者アンケートの実施 〔回収率 88.5% (77名)〕

【設問1】「初期家族講座」の内容全般について、ご満足いただけましたか
・満足 81%(62名) ・やや満足 19%(15名) ・やや不満足/不満足 0%(0名)
具体的に現在悩んでいることを相談することができた
当事者の言動や行動を理解することができた
同じ病人を持つ家族の方々とお話ができ、良くわかってもらえてとても嬉しかった

【設問2】同講座に参加して、どのような点が良かったですか(複数回答可 総数196)
・当事者の症状への対処法を学ぶことができた(60)
・他の参加家族との交流・情報交換がはかられた(56)
・当事者と生活していく上で役に立つ情報が得られた(50)
・一人で抱えていた問題・不安の解消につながった(30)

【設問3】同講座がお住まいの地域で開催される際には参加したいと思いますか
・ぜひ参加したい 73%(56名) ・どちらかといえば参加したい 21%(16名)
・あまり参加したくない 1.3%(1名) ・参加したくない 1.3%(1名)
新しい情報を得るために参加したい
できれば1泊で土日だと参加しやすい
次回は初期対象ではない講座に参加したい
自宅から開催地が近ければ参加したい
自宅からあまり近くないところに参加したい(知り合いに会いたくない)

【設問4】同講座を他の当事者家族に勧めたいと思いますか
・大いにそう思う 58%(45名) ・そう思う 38%(29名)
・そう思わない/全くそう思わない 0%(0名)
不安を解消し、具体的な対処法を取得することができる
家族会以外に、適切な「勉強会の情報」がない
いままでモヤモヤとしていた気持ちが晴々としたから
一人で苦しんでいる人が多いと思うので、とても助けになると思う
知らないと、当事者によかれと思っていたことでも苦しめていることが多々あると知ったから

【まとめ】
アンケートの結果から、参加者からの反応はよく、内容の構成は評価できるプログラムであったものと考えられます。
しかし、講座の参加人数はすべての会場で定員を大きく下回る結果でした。
その原因のひとつとして、2泊3日の宿泊講座であったことが参加の阻害要因となった可能性が考えられます。
また、開催地へのアクセスが困難であったことも考えられます。
今後、同様の講座を実施する際には日数や開催地の検討を行い、より対象者の参加しやすいプログラムを考案することが求められます。