特集3
支援者が気づいたメンタルヘルス界の謎(201号)
○「こころの元気+」2023年11月号より
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▼2人の支援者が気づいてしまった謎のエピソード
2つの場面、その謎は?
筆者:西寅裕貴
(就労支援センターFLaT 生活支援員)
早速ですが、2つの場面をそれぞれ想像してみてください。
まず1つ目
「担当者会議」皆さん一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
支援者達が集まって話し合いをするアレです。
今回はAさんの支援者が集まって、Aさんが今後どうしていくかを話し合うみたいです。
最近の状況、支援の方針などそれぞれ共有されていきます。
各支援機関が情報共有し、「ではAさんに伝えておきますね」と今回の会議は終わりました。
そして2つ目
仕事をしているBさんのことで、職場の上司から支援者に電話がかかってきました。
「こんな仕事をしてもらってるんですが、どうでしょう、負担になってないですかね?」
「最近体調大丈夫ですかね?」など、Bさんの勤務状況など気にかけて連絡をしてくれました。
どうでしたか?
これは実際に私が直面した場面です。
今回のテーマ「メンタルヘルスの謎」、これって不思議だよねって思ったことでパッと出てきたのがこの状況でした。
では何が不思議だと思いますか?
それは、どちらもAさんBさんの当事者が一緒に参加していないということです。
本人の気持ちが一番大事なはずなのに、そこにいないって不思議じゃないですか?
情報の共有・どういった支援をしていくか話し合う。
大事なことだと思います。
でも、本人の気持ちや意向を聞く前に、支援者で方向性を固めてもなぁ。
体調を気にしてもらう・配慮事項など相談してもらう。
ありがたいことです。
けど、本人と直接話ができれば、お互いの考えや気持ちがわかりやすいのになぁ。
この仕事に携わってきて、わりとそういうことが多いんですね。
実際にやるのは本人なのに、本人が知らないところでいろいろ進んでいくのって不思議だなぁと、改めて思う今日この頃でした。
相談への回答の謎
筆者:梁田英麿(やなたひでまろ)
(東北福祉大学せんだんホスピタル包括型地域生活支援室(S-ACT)室長)
異文化の地でフィールドワークをしていた私は、そこに暮らす人々のふるまいを見よう見まねすることで、現地の人達との関係づくりがすすみやすくなるという経験をしたことがありました。
まねしてみようと…
そこからこの業界に転職をし、まだ右も左もわからなかった頃、私は「作業所」の蛍光灯の下でも、まずはその経験知を活かしてみようと思い立ちました。
利用者さんが相談にくると、おおむねまわりの人達は、
「それは今度病院へ行ったときに先生に相談してみたら?」
「頓服はのんでみたの?」
と言われていましたので、
「親亡き後が心配になっちゃって…」というお悩みに、私もとにかく
「病院の先生に相談なさってみては?」とまねてみたのです。
今となっては恥ずかしい話でしかありませんが、
「本当に生活保護が受給できるか心配になっちゃって落ち着かないんですよ…」という相談でも、
「頓服はのまれましたか?」と。
私にとっては、当時も今も、必要度に合わせて「薬」の力を借りることは適切な判断であり、「精神科医」も心強い存在であることに変わりはありません。
とはいえ、当時の私は、近くの人達のやり方に倣っていたものの、この業界独自の「医療への偏向」については「謎」のように映ってしまい、心の内では疎外感にも似たモヤモヤとした気持ちを抱いていたのです。
その後
むしろ利用者さんの営みのほうを注視して、共に食事を作ったりタバコの煙をくゆらせたりすることに、より時間を費やすようにしてみました。
すると次第に、親亡き後のお悩みならその人の声を大切にして寄り合うほうが、
生活保護の相談ならその人と一緒に役所へ行ったりしたほうが、
治療的な結果ももたらしやすいと感じるようになっていったのです。
このようにして「人とのつながりの中で支え合うバランス」を知り得られたことは、
その独自性が脈々と変わらない時空間に身を置く私にとっての僥倖(ぎょうこう)だったと思っています。