自分のしてきたことを過去にしない (本人)


こころの元気+ 2012年1月号特集より      →「こころの元気+」とは?


特集5
自分のしてきたことを過去にしない
ピアカウンセリングに出会って  

埼玉県 市川左千子さん


リストカットをやめて

私の両腕には、無数の傷があります。リストカットなんて生やさしいもんじゃありません。二の腕まで傷があるアームカットです。

最初は、死にたいという気持ちからでした。何回も死にたいを重ねているうちに、気持ちが高ぶって落ち着かなくなったり、不安が強くなっただけで切っていました。
今は切っていません。それが何の解決にもならないと気づいたから。
そして入院していたとき、リストカットを自慢し、また崇めるのを見て、「命を軽んじている」と思いました。リストカットなんて、全然りっぱじゃありません。

私が今、リストカットに逃げずにいられるのは、当事者会の仲間がいて、ピア活動に参加しているからです。
統合失調症や躁うつ病(私は躁うつ病です)と病名は違うけれど、仲間同士理解し合い、助け合いながら活動しています。
全国のピアグループ一覧はコチラ

電話相談を始めて

そこで私がしているのは、電話相談のピアカウンセリングです。火曜日と木曜日の一三時から一六時四五分まで、役員の何人かで持ち回りをして受け持っています。平均月二回担当します。
かかってきた電話は基本は傾聴なのですが、私は最初に話した感じで「この人話したいだけだな」とか、「この人はアドバイスを求めているな」と判断し、会話を進めていきます。
そしてアドバイスを求めている人には、自分の経験や学習してきたことから一緒に答えを探し出します。
私には、四回の転院と二〇回近くの入院、リストカット、OD(過量服薬)、自殺未遂の経験があります。だから、入院のつらさや自殺したい気持ちがわかるんです。
身の安全のため多量投薬されていた。同じく保護室に入れられた。病気になると、将来が見えなくて死にたくなってしまう。どの程度が最悪かわかりませんが、私もけっこう最悪なところを歩いてきたなと思っています。

「もっとたいへんな人がいる」とは言わない

だからといって、相談者に「あなたはまだまし、もっとたいへんな人はいます」とは言いません。
電話するというのは、勇気がいることです。その人のなかで問題が最大化しているんです。その人にとってたいへんだったろうことについては、「たいへんでしたね」とまず言います。

今、こうしてピアカウンセリングができているということは、いいことも悪いことも私の人生に病気があったから。
昔は戦っていました。でも今は共存しています。バランスよく生きることで、ピアカウンセリングのいい答えが見えてくる。相談者とも共存なんです。
ピアなんだから、けっして上の立場ではない。仲間なんです。
だから、答えを与えるのではなく、ともに見つけだしていくんです。答えのたんすを開けるように。
そして、その引き出しに私の病歴が数多く入っています。

自殺をしたいと言ってきた人に対して、「やっちゃだめ」は誰にでも言えます。そしてその言葉は、相手の気持ちを強くさせてしまいます。もっと、深い気持ちに入っていって、相手の死の動機を探り合うんです。
これは、すべてのピアカウンセラーができるわけではないと思います。入院や自殺未遂をしたからこそ、わかりあえる気持ちだと思います。
むずかしいことですが、自分のしてきたことをただの過去にしないで、ピアカウンセリングにいかしていきたいと思います。