主治医との協同作業で薬を減らすにはどうしたらよいのか(医師)


「こころの元気+」2008年5月号より


主治医との協働作業で薬を減らすにはどうしたらよいのか

三家英明/三家クリニック院長

 

薬、患者さん、そして医師、それぞれの役割

あれほどはげしい幻聴に苦しめられていたAさんでしたが、薬を変更してからいやな声は次第に遠のいていき、ときどき聞こえはしてもあまり気にならなくなって、デイケアにも参加できるようになってきました。
服用後、少し眠気やだるさが感じられるようになってきたため、薬を減らすことになりました。病状が好転してきたので薬が担う仕事は減ってきて、これからはAさん自身が回復に向けて、積極的に活動する番になりました。今後、デイケアの利用で仲間との交流も増やし、ストレスの少ない安定した日々をおくれるようになれば、薬はもっと減らせるようになるでしょう。
病気の回復過程では、薬、患者さん自身、医療スタッフや家族などが、回復の段階に応じてそれぞれに担う役割があり、それぞれがその出番に応じて役割を果たすことで治療効果も上がっていくものです。医師は患者さんの生活ぶりを把握しながら、回復のための作戦を練っていきます。この回復の過程を支えていく最も重要なことが、医師と患者さんとの間のよいコミュニケーションであり、それに基づく率直な情報交換であると思います。

 

主役である患者さんの役割

病気から回復の過程では、主役は患者さんに他なりません。患者さんが主役として登場して、医師や治療スタッフとの協働作業(回復大作戦)のメンバーとしての役割を積極的に担っていただくことが期待されます。
していくためには、患者さんが自分の病気や症状について知り、それに対してどう対処していけばよいのか、のんでいる薬は自分のどんな病状に対して効いてくれているのか、どんな副作用があるのかなどについて知っておくことが大切です。
自分の病気のこと、薬についてまだよく知らないという人は、思い切って医師やスタッフに尋ねたり、デイケアやグループワークで病気や薬の勉強をしているところがあれば、ぜひ参加してみるとよいでしょう。そうすることで、診察室で医師に伝えるべきこともわかってくると思います。
医師が処方を考えるときには、診察の際に患者さんから得られる情報がとても重要な検討材料になります。薬をきちんとのんでいるか、薬をのんでどうだったか、症状や体調の変化はないか、どのような一日、一週間を過ごしたか、どんな気分で過ごしたかなど、ぜひしっかりと伝えてほしいと思います。
どんなにすぐれた医師であっても、患者さんから何の情報もなく最適な薬を決められる、ということはあり得ません。医師は、服用した患者さんの意見を頼りにして、患者さんと一緒に、その都度より適した薬の種類と量を探していこうとしているのです。
また、せっかく伝えることを考えていながら診察室に入った途端、頭の中が真っ白になってしまい、何も言えなくなったという方も少なくないようです。そのような人はぜひメモやノートに書き留めておいて、現状を伝えるようにしましょう。また、診察の際に言いそびれたりしたことは、看護師やソーシャルワーカーなどに話しておけば医師に伝えられるはずです。

 

急がばまわれ

今回は薬を減らすことがテーマですが、最初に紹介したAさんの例でおわかりのように、「薬を減らす」「薬が減る」のは病状回復の目的ではなく結果なのです。再発や再燃などといわれる病状の悪化を来すことなく、着実に回復の道を歩む療養生活をおくることが、結果として薬の減量をもたらすのです。
そのためには、患者さん自身が生活面での課題に柔軟に対処できるようになり、予定や目的のある安定した日常生活を定着させていくことが必要です。また、もしも病状に変化が起きたときには、薬が増えることに気を奪われず、できるだけ早く医師や治療スタッフに相談して対処することも大切です。
最後になりましたが、私たち医療スタッフも、患者さんと医師・医療スタッフとのコミュニケーションをよくして、薬のことだけではなく、生活上の問題や治療に見通しについて率直に話しあえるよりよい環境づくりに努めなければならないと考えています。