こころの元気+ 2014年1月号特集より
特集8
運動が精神疾患を改善する時代
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所
永松俊哉
精神疾患の治療に運動が用いられた時代は古く、古代ギリシャ時代に体操が用いられていたとの記録があるそうです。
しかし、近代の精神医学では運動が治療法として積極的に取りあげられることはありませんでした。
ところが最近では、運動がさまざまな精神疾患に治療効果のあることがわかってきました。
このことを踏まえ、イギリスでは国立医療技術評価機構より精神疾患についての診療ガイドラインが複数発表されています。
その中で、うつ病、認知症、不安障害・パニック障害等では、運動に、薬物療法と並ぶか、または先立つ初期の治療としての役割が与えられています。
また、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、双極性障害、統合失調症では、療養の補助として運動が位置づけられています。
昨今の研究結果などを見てみると、運動が精神疾患の治療に役立つことはおおむね間違いなさそうです。なかでもうつ病に対しては、運動は薬物と同等の効果を持つとの報告もあり、その有効性には大きな期待が寄せられています。
昨年、日本うつ病学会が大うつ病性障害の治療ガイドラインを発表しました。そこに軽症うつ病患者に対する運動療法が記載されたことは画期的なトピックです。
では、どのような運動が望ましいのでしょうか。誤解を恐れずにいえば、「どんな運動でもOK」というのが結論です。有酸素運動、筋力トレーニング、あるいは気功や太極拳でも効果が得られる可能性があります。
専門家の指導を受けながら運動することが理想ですが、ストレッチなどの軽い運動なら、患者本人が日常生活の中で自主的に実施することも可能でしょう。ポイントは運動後に気分の改善が得られるかどうかではないでしょうか。
日本の精神科医療において、どのような運動をいかに活用すべきかという課題への取り組みは始まったばかりです。
今後は日本人対象の質の高い研究の実施が急務であり、その科学的な根拠にもとづく診療ガイドラインの発信が望まれます。