特集3 共同意思決定において大切だと思うこと


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著者:久永文恵(ACT-IPSセンター/認定NPO法人コンボ)

「共同意思決定」「意思決定支援」「自己決定」「対話」などを耳にすることが多くなり、これらを尊重していこうという動きが進んでいます。

考え方や実践が普及していくのはいいことだと思いますが、実際にそのプロセスがどう行われているのか、当事者側はどんなふうに感じているのか、本当に望ましい姿になっているのかなどの確認が置き去りにされていないか、流行りものになっていないか心配でもあります。

自分のことを自分で決めなければいけないときには、不安がつきまとい誰かに頼りたくなるし、よい選択をしたいので他の人の考えを聞いてみたくなります。
周囲の人にも影響を与える決めごとに関しては、自分だけで決めることがむずかしい場面もあります。
治療や支援内容を決めるときもそうだと思います。

そのようなときに、お互いの希望、経験や知識、感じていることなどを共有し話し合い、よりよい内容を決めていく「共同意思決定」はとても大切なプロセスだと思います。
そのプロセスにはそれぞれ好みなどがあるかもしれませんが、基盤となるのは協働する者同士の関係性です。
では、当事者・専門職などがどのような関係性であることが望ましいのでしょうか。
今回は「こうあるべき」を述べるのではなく、私自身が感じていることを皆さんと共有してみたいと思います。考えるきっかけにしていただけると幸いです。

関係作り

話しやすく、この人に相談しても大丈夫、味方になってくれそうなど、少しでも信用してもらえる関係性を、あせらずていねいに作っていくことが大切かと思います。
自分の話を否定せず受け止めてもらっているという感覚が芽生えてくると、
「心配ごとや希望などを話してみようかな」と思えるようになるかもしれません。
自分が大切にされている、歓迎されているという感覚をお互いに増やしていくことが大切です。

相手のペースに合わせること

一方的にあせって答えを出そうとしたり、「こうしたほうがよい」という説得モードにならないことは大事かと思います。
できるだけ客観的な情報などを伝えつつ、相手がどう感じ、何を選び取っていくのかというプロセスを見守る姿勢も求められます。
また、見守りといいつつ、何もせずに本人に決めることを「丸投げ」をしないということも大切です。

「こうあるべき」シナリオに誘導しない

相手に情報や意見を伝えていく中で、説得になっていないか検証しながら話し合いを進めていくことが大切かと思います。
説得が続くと、
「気持ちを伝えたところで結局は聞いてもらえない」「専門職が言うことが正しいのか」と相手があきらめてしまったりします。

私が不安になるのは、いつの間にか「私が考えていることのほうが絶対正しいよ」というメッセージを相手に対して発していないかということです。
「そうだね、久永さんが言っていることが正しいよね」などと言われると、急に怖くなることがあります。
その気持ちを率直に伝え、「これで本当にいいの? 本当はどう思っているの?」など、お互いが言い合える関係性が築けるといいと思います。

わかっているふりをせず、お互いに学び続ける

学び続けるというと何だか堅苦しい感じがしますが、よい話し合いや選択をするにはお互いが学び続けるという姿勢が必要になると思います。
役に立ちそうな知識を得ることも助けになりますし、協働している相手についてよく知るのも学ぶことです。
それらを共有し相手と関わることが、自分が何を求めているのか、より主体的に選び取ることにつながるかもしれません。

誰にとっても

お互いの言葉や気持ちが大事にされる環境の中で、
「自分の希望を伝えてもいい」「自分のことは自分で決めていい」という感覚を持てるようになることは、「自分を大切にすること」にもつながります。
これは立場を超えて、誰にとっても大事なことかと思います。

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