特集9 災害後の心のケアについて―自治体の役割
熊本こころのケアセンター
矢田部裕介
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災害直後の急性期
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災害直後の心のケアとしては、避難所等の精神疾患をかかえた被災者への精神医療の提供、災害ストレスにより新たに起こる精神的問題をかかえる住民への対応、さらには、オーバーワークで疲れ切った地元の支援者へのケアが必要となります。
災害時であろうと、平常時であろうと、市町村レベルでは役場保健師が住民の直接的な心のケアを担います。
しかし、災害直後は役場機能も少なからず混乱しており、避難者が多数発生する事態にもなれば、役場保健師のみでは心のケアをまかなえない状況におちいります。
市町村は、他県の保健師チームや医療支援チームを受け入れることで、精神保健医療体制を補うことになります。
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DPAT(ディーパット)
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心のケアを担う医療支援チームとしては「災害派遣精神医療チーム(Disaster psychiatric assistance team:DPAT)」が知られています。
DPATは、精神科医や看護師、業務調整員等から構成される3~5人のチームであり、投薬や緊急対応も可能であり、精神疾患をかかえた被災者にとって心強い存在となります(図1 PDFへ)。
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復興期
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災害急性期を過ぎ、復興期に入ると、不自由な仮設住宅での暮らしや生活を再建するむずかしさ等を背景とした、うつや自殺の問題、アルコール依存症、トラウマ反応の遷延化(長引くこと)、認知症の悪化など、さまざまなメンタルヘルス課題が生じます。
災害の規模が大きくなると、復興期においても、市町村保健師のみでは、これらの課題への対応が困難なことがあります。
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こころのケアセンター
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阪神・淡路大震災や新潟中越地震、東日本大震災、そして、熊本地震では、都道府県レベルで「こころのケアセンター」を設置し、被災者の中長期的な心のケアに対応してきました。
こころのケアセンターでは、役場保健師と連携をしながら、被災者の個別支援から地域支援者への助言・人材育成・地域のネットワーク構築・心のケアに関わる普及啓発等が行われます(図2 PDFへ)。
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地域支え合いセンター
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また、熊本地震や西日本豪雨災害では被災者の中に入り、課題を専門機関につなぐ役割を担う「地域支え合いセンター」が各被災市町村に設置されました(図2 PDFへ)。
どのような相談にも耳を傾けてもらえる同センターの活動は、心のケアにも効果をあげています。
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日頃から
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一方で、DPATやこころのケアセンター、地域支え合いセンターは災害時ならではの枠組みです。
あくまでも地域の心のケアの直接的な担い手は役場保健師であり、精神保健担当の保健師(もしくは、地区担当保健師)と、日頃から良好な関係を築いておくことが、災害時にもきっと役に立つと思います。