「あきらめない障害年金」
「こころの元気+」2019年2月号(144号)より →「あきらめない障害年金」の連載について
文:井坂武史(社会保険労務士)
この連載では、障害年金が支給されたケースや不支給になったケースを具体的に1回ごとに完結する形でお届けしています。
第5話
往診による診断書の作成を依頼(外に出られないケース)
コミュニケーションが苦手なCさん
Cさんは、幼少期から、多少の成長の遅れやコミュニケーションが苦手で、砂場で遊んでいると急に砂を投げつけたり、会話もオウム返しばかりで、他の子どもからは「まねばかりするな」と言われていました。
また、低身長であったため、小児科でホルモン注射を受けていました。
小児科の先生より、本人の言動がおかしいとの理由で、中学生のときに総合病院の精神科を紹介されました。
総合病院の精神科では広汎性発達障害(アスペルガーなど)と診断され、担当医から精神障害者保健福祉手帳の取得をすすめられました。母親が、家に帰って夫に相談すると、
「うちの子どもは障害者じゃない!」と怒って、断固として障害者と認めようとしませんでした。
そのときにお母様がお話くださったことによると、
「まだ未成年でもあり、今後、将来にどういう影響があるのか、親の不勉強もあって障害者手帳の発行は断りました」とのことでした。
高校生になると、同級生からお金を要求されるようなことがありました(返金されたそうです)。
卒業後の仕事で
高校を卒業後、近所の工場でアルバイトを始めましたが、何度も同じ間違いをしたり、コミュニケーションがはかれずに3日でアルバイトを辞めました。
その後は20~30社近くの会社に面接に行きましたが、すべて不採用でした。
父親の紹介で入社した会社も、仕事ができない、コミュニケーションが取れないなどの理由で、同僚から不満がたまり、そのうち、罵声を浴びせられ、ミスのたびに頭をたたかれ、タバコを買いに行かされるような使いぱしりになり、たまらず職場から逃げ出しました。
別の仕事にも就きましたが、「21歳にもなって、こんなこともできないのか」と言われたりしたため、その会社を辞め、父親が経営する会社で簡単な雑務をさせることにしました。
しかし、仕事ができないことに変わりはなく、次第に職場でいじめられるようになりました。
いじめによるストレスが限界に達し、同僚が出勤時に使用していた自転車を破損させました。社長兼父親は激怒し、その場で土下座させてなぐりました。
病院にも行けない
その件がきっかけで外出恐怖が加速し、病院とのつながりを持っていたほうがいいと判断し、医療機関を受診しました。
しかしながら、Cさんの外出恐怖は日に日に増し、母親の車に乗せると後部座席で体を丸めて隠れるようになり、異常なほどの汗をかいて通院する状態でした。
「障害年金の手続きをしようにも本人が病院にも行けない」という状況で、いよいよCさんの外出が困難な状況となり、筆者が障害年金の手続きをすることになりました。
保健所に相談
しかしながら、Cさん本人が受診できない状況のため、まずは市の保健所に母親と相談に行き、嘱託で(仕事を依頼されて)来られている精神科医に相談しました。
市の保健所相談で嘱託のため、自宅訪問はできるものの、診察や処方ができないことから、嘱託医が開業されているクリニックで受け入れてくれるように手配しました。
また、本人の受診がむずかしいことから、往診による診断書の作成を依頼しました。
後日、クリニックから先生に往診に来ていただき、診察と処方箋発行をしてくれて、障害年金の手続きをすることになり、数か月後に障害年金が支給されました。
外出困難な状況であることに変わりはありませんが、無事に障害年金が支給され安堵しました。
このように、発達障害や統合失調症で病識(病気だという認識)がなくて通院できない人は、まずは保健所などで相談し、必要に応じて地域で往診に来ていただける精神科医を見つけ、そのうえで障害年金の手続きができるということを検討してほしいと思います。
注意:平成23年9月から発達障害も障害年金の対象になりました。
それ以前は「知的障害を伴う発達障害」のみが対象だったため、高機能の発達障害者は障害年金がもらえないというケースがありました。
文:井坂武史
いさか・たけし●社会保険労務士。昭和53年生まれ。平成22年に当事務所を開設以来、障害年金を中心に業務を展開。自身の闘病体験から、依頼者の立場に立って一緒に考えることをモットーとしている。