こころの元気+ 2012年10月号特集より →『こころの元気+』とは
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特集3 双極性障害研究情報 ※加藤忠史先生のDVDは→コチラ
理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム
加藤忠史
精神疾患の原因解明に関する研究には、ゲノム研究、脳画像研究、死後脳研究、動物モデル研究などがあります。
特に、ここ数年ゲノム(DNA)研究が大きく進展しました。
以前は、一つの遺伝子の個人差が病気のなりやすさに関係しているかどうかを数百人の患者さんで調べる研究が盛んに行われていました。
二〇〇七年に、DNAマイクロアレイと呼ばれる新技術を用いた大規模研究が行われました。
DNAマイクロアレイとは、一センチくらいの小さなガラス板に、百万種類くらいのDNA断片がスポット上に貼りつけられたものです。
この手法を用いて、二千人の患者さんで50万個の遺伝子多型(頻度の高い個人差)を調べた研究が報告されました。
その結果、病気になる確率を一割増やす程度の弱い影響を持つ遺伝子多型が精神疾患に多数関係していることが示唆されました。
その多数がいくつかはわかっていませんが、おそらくは数千個の遺伝子多型が関係しているだろう、と推定されています。
数個ならともかく、数千個となると、その先の研究を進めようがありません。
そこで次に期待されるのは、まれだけれど、強い影響を持つゲノム変異の探索です。
これにも、DNAマイクロアレイ技術が活用され、まずは、染色体の大きな領域が抜けていたり、重複していたりする変異(コピー数変異、略してCNVと言います)が、探索されました。
その結果、健康な両親から生まれた自閉症の方では、両親が持っていないのに新たにできたCNV(デノボCNVと呼びます)を持っている人が一割くらいいるのではないかと推定されました。
双極性障害でも、若年発症のケースでは、デノボCNVの役割が示唆されました。
一方、CNVのような大きな変異ではなく、DNAの塩基配列が、ひと文字だけ違っている、というタイプの変異(点変異)についても探索が進められています。
こうした研究は、次世代シーケンサーという、ガラス板の上で、DNAを少しずつ増幅して、一文字増やすたびに写真をとって、配列を調べるという方法で大量のデータを得る技術が開発され、初めて可能となりました。
自閉症では、さっそくこの手法によって、こうしたまれな点変異も関与していることが報告されています。
こうした手法を用いることで、双極性障害の発症に大きな影響を与える遺伝子を見つけることができるはずです。
双極性障害を引き起こすゲノム変異がわかれば、動物モデル(人の疾患と同じか似た疾患をもつ動物)をつくることができ、これを使って、診断法や、新しい治療法の開発を進めることができます。
他の内科・外科の病気でも、ゲノム研究で同定した変異をもとに動物モデルをつくることが、診断法、治療法開発の大きな力となってきました。
双極性障害のゲノム研究の推進は、診断法、治療法開発の第一歩ということができるでしょう。