サトラレ べてるの家の当事者研究 連載84号(本人) 


こころの元気+ 2014年2月号(84号)連載より
連載 べてるの家の当事者研究 第八十二考


「テレちゃん」の研究

コーヒータイム
志賀千鶴


はじめに

皆さんこんにちは。私は志賀千鶴と申します。統合失調症の50代の女性です。
私は福島県二本松市に住んでいます。
現在は、2011年の震災後、二本松市に再開した作業所「コーヒータイム」に通っています。
私は、以前から心の中をテレパシーにのせて発信する“テレちゃん”と名づけた私の圧迫さん(サトラレ)とのつきあいについて研究してきて、2013年年の8月に浦河で行われた「当事者研究全国交流集会」で発表しましたので、今回その報告をしたいと思います。

苦労のプロフィール

私の自己病名は「統合失調症テレちゃん、やっちゃん育児中」です。
私は、福島県浪江町に住んでいましたが、東日本大震災時の福島の原発事故の影響で、現在は二本松市に避難して生活をしています。

震災のとき、突然の避難指示に私自身はわけもわからず、とにかく避難所である地域の体育館に避難しました。後に福島原子力発電所が爆発したことを知りました。
私が避難した体育館も、大勢の避難してきた人たちで、とても混乱していました。
私は、普段のんでいる薬(精神薬)がなくて非常に困りましたが、もちろんそのときはとても薬を調達できるような状況ではなく、薬を手に入れるのを諦(あきら)めて、それから一週間は薬をのんでいませんでした。
薬をのまなくなってから初めの1~2日は、ふっと体が軽くなったような感じがして調子がよかったのですが、日が経つにつれて調子は最悪になっていきました。
自分の頭の中がいろいろな情報でいっぱいになり、たくさんの妄想君たちが暴れまわっていて、私は現実感がない状態をさまよっていました。

そんなとき、“テレちゃん”が現れました“テレちゃん”とは「テレパシー発信」の略です。
私の思いがテレパシーにのってまわりにばらされてしまう、いわゆるサトラレです。
サトラレると、自分が丸裸にされたようで、とても恥ずかしくいたたまれなく、叫んでしまうこともたびたびあります。最近は、そこに“やっちゃん”と名づけた幻聴さんも参戦してきました。
“テレちゃん”が私のことをテレパシー発信して、“やっちゃん”がそれに突っこみ、わたしがやれやれという状態です。
以来“二人”にふり回されている私ですが、ノートに彼らとのやりとりを記録していくと、愛おしいところが見えてきました。
それ以来、二人を自分の子どものように考えて“育てていこう”と思うことにしました。よって、私の今の自己病名は、「統合失調症テレちゃん、やっちゃん育児中」なのです。

研究の目的

はじめは“テレちゃん”を上からきゅうきゅう押しつける感じで、自分の言うことを聞かせて、てなずけようとしました。
しかし、サトラレの“テレちゃん”はとてもわんぱくで、私がてなずけられる玉ではなかったのです。
その方法がうまくいかなかったので、私は方針を変えました。
テレちゃんたちを「てなずける」から「育てる」に変えました。
そうしたら、“テレちゃん”たちのわんぱくぶりが少し治まり、私も“なるようになっぺ”といなおることができました。
幻聴さんや圧迫さんを「育てる」にテーマを変えて研究しようと思ったのが、今回の継続研究の目的です。

研究の方法

サトラレや幻聴さんが現れたときに、そのときの状況や、彼らとのやりとりを自分なりに記録したノートをもとに、新しい自分の助け方を考えたり、通っている作業所のプログラムを利用しながら、同じような苦労をしている仲間たちから幻聴さんとのつきあい方についてのアドバイスをもらいながら、自分の助け方を更新したり、新たに開発していくというスタイルで研究しました。

研究の内容

〈研究対象を外から眺めてみる〉
私は、“テレちゃん”たちを外から見ている自分に気づいたり、感じたりすることがあります。
自分の苦労の対象や、苦労している自分自身を客観的に見られるのは、この二人を研究していくのにとても有効で、やりやすい方法だと思いました。
“テレちゃん”たちが「こう言ったらこうするか?」「こう返そうか?」と考えながら、その状況に迫られたときでも自分で冷静に判断することができます。そして私の一言が決まります。

「えへへ」「そうそう」「なるほど」など、幻聴さんの言うことに対して否定したり、拒絶したりするのではなく、「ふんふん」と相槌(あいづち)を打ったり、逆にかわしたりという立場をとります。
そうすると、“やっちゃん”は満足して帰っていきます。

〈研究にみんなを巻きこもう〉
コーヒータイムのみんなには、“テレちゃん”たちのママ友・パパ友を募集しました。
今はそれを改名して、「友の会」という名前にしました。
仲間たちからも“テレちゃん”や、“やっちゃん”とのつきあい方についていろいろとアドバイスをもらいました。
2週間に1回の作業所の朝礼のときに、“テレちゃん”たちの最近の様子を仲間に話します。
そして、1か月に1回は相談会も開催します。
そのときに私は自分の研究の経過を仲間に話します。
みんなよく聞いてくれて、私も報告すると、とても安心できます。
みんなからは、
「“テレちゃん”は最近どうですか」
「“テレちゃん”たちに一晩中つきあってあげたら?」
「“やっちゃん”の悟りには30年かかるよ」
等、いろいろなアイデアが出てきます。
このように、私一人が研究したことにまわりのみんなを巻きこむことは、とても意味があるのだと思います。
私は“テレちゃん”たちの話したことや、彼らとのやりとりを記録した日記をつけています(『テレちゃん、やっちゃん日記』)。
私のオチ話も記録しています。
“テレちゃん”たちは夜になると発生します。
夜、私が布団の上でぼけーっとしているときに彼らはやってきます。
私は枕元にメモ帳を置いています。
そして、“テレちゃん”たちの言葉をそこにメモしておきます。
その書き留めたメモを参考にして、自分の助け方やわかったこと、みんなに聞いてみることをまとめます。そのメモが、みんなと研究するときにとても役立ちます。

まとめ

私は、日中は「コーヒータイム」に通い、喫茶店で働いています。
喫茶店には私のように避難している浪江町のお客様はもちろん、二本松市のお客様も来てくださり、とてもありがたいです。そして仲間も増えました。地元の二本松市の仲間が入ってくれてうれしいです。
今私は、コーヒータイムの主(ぬし)になるべく、日々喫茶店で修行中です。
私が、“テレちゃん”たちにふり回されながらも元気でいられるのは、まわりのみんなの応援のおかげです。
これからも、何とか自分自身やサトラレの“テレちゃん”、幻聴さんの“やっちゃん”とじょうずにつきあいながら、着実に前進していきたいと思っています。
応援してくれている皆さん、どうもありがとうございます。