「こころの元気+」2011年7月号特集より →こころの元気+とは
特集5
食事は精神疾患に影響するのでしょうか?
たけだメンタルクリニック
益子雅苗
食事と体の関係
人間は、食事によって必要な栄養を取り入れています。
食物は、消化され栄養素として吸収されて体内に入り、活動のためのエネルギー源となるばかりでなく、筋肉や骨、細胞などの生体の構成や生命維持のためのさまざまな機能に利用されます。
食事がとれなかったり、食べていても必要な栄養素が充分に摂取できなかったりすると、体が正常な働きを維持することが困難になります。
その結果、検査では異常として現れないような軽度の体調不良から重篤な病気に至るまで、さまざまな体の不具合を起こしてきます。
たとえば、三大栄養素の一つであるたんぱく質は、
①筋肉や細胞を構成する、
②酵素やホルモンとして代謝に関与・調節する、
③栄養素や酵素などを運搬する、
④レセプターとして生体情報の伝達に働く、
⑤抗体として防御作用を行う(免疫)、
⑥エネルギー源となる、
といった働きがあります。
よって、これが不足すると筋肉量が減り、代謝量や免疫力など体力が低下して病気になりやすくなる、また血球や消化酵素がつくれないので、摂取した栄養を組織に運搬できないどころか消化管で栄養を充分に吸収することもできず、さらに栄養不足となる、といった悪循環に陥ることになるわけです。
食事による精神機能への影響
精神機能を担っている脳は、生命活動の中枢であり、たくさんの栄養を必要とします。
すなわち、摂取された栄養に大きく影響を受けることになります。
具体的には、
低血糖により脳のエネルギー源となる糖質が不足すると、頭がボーっとする(意識障害)、
神経の働きに必要なビタミンB群の欠乏により、けいれん、ときに幻覚妄想がみられる、
脱水(水分の不足)や水中毒(水分過多)などにより電解質のバランスが崩れると、意識障害、イライラなどが起こる、
などがあります。
また健常者でも、極度の飢餓状態により、情動不安定や幻覚妄想など精神症状を呈してくることがわかっています。
うつ病などでみられる食欲低下や摂食障害における食行動の異常など、精神疾患によって食事が摂取できないことのみならず、食事がとれていても必要な栄養素が摂取できていないことにより精神症状が出現、悪化することもあるということです。
「脳が安心、満足する食べ方」とは
栄養素が偏らないように、なるべく数多くの食品をバランスよく食べましょう。
特に、生体を構成するたんぱく質や、神経の働きに必要なビタミンB群を積極的にとりたいところですが、食事のみで充分量を満たすことがむずかしい場合は、サプリメントの利用も効果的です。
食事が不規則になったり、食事と食事の間が長くなったりすると、脳は必要な栄養が入ってこないことで不安を感じ、次の食事でたくさんの栄養を蓄えようとします。
このため、食事の時間をなるべく一定にすることは、生体リズムを調整するためだけでなく、脳が「安心」するためにも重要です。
特に夜間の睡眠は、脳にとって重要な時間であり、このときに食物の消化による負担をかけないよう夕食は遅くならないようにして、その分、朝はしっかり食べましょう。
食事と食餌
食事は、栄養素の摂取という意味だけでなく、生きていくために必要な行為そのものでもあります。
「いただきます」と「ごちそうさま」を忘れないこと、
食物と向き合って、「ながら食べ」をしないこと、
姿勢を正してよくかんで味わい、「おいしい」と声に出すこと、
そのようなことも精神の安定のためにとても大事なことです。
食事が、単なる食餌(えさ)にならないように心がけましょう。
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