特集2
ヒアリング・ヴォイシズって何ですか?(215号)
○「こころの元気+」2025年1月号より
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筆者:佐藤和喜雄
特定非営利活動法人福祉会菩提樹 理事長
ヒアリング・ヴォイシズ研究会 代表
▼声が聞こえていても
「誰もいないのに、声が聞こえる…」
このような体験は、精神医学で「幻聴」といい、多くの場合、統合失調症の症状として抗精神病薬による薬物療法の対象とされています。
しかし治療を受けていても、「声」のために苦しみが続く人が多くいます。
逆に、「声」が聞こえていても精神科医療と無縁で、その人らしい生き方をしている人々もいることは、あまり知られていませんでした。
▼ヒアリング・ヴォイシズ
ヒアリング・ヴォイシズという取り組みは、
聞こえる体験をそのまま「ヒアリング・ヴォイシズ=声が聞こえる」という言葉でとらえ直し、その体験への理解・対処・支援について学び、聞こえる本人の自已理解と関係者の理解を進めようとする研究と支援活動です。
■始まり
1987年にオランダの社会精神医学教授M・ロウム博士と彼が診ていた患者で「声」に苦しんでいた女性P・ハーグさんが、テレビ番組で彼女の「声」について語り合いました。
これを機に、「声を聞く」多くの体験者が語り合う会が始まります。
■拡がり
ロウム博士らはそこから多くを学び、成果を世界的な精神医学雑誌に発表しました(1989)。
以後このヒアリング・ヴォイシズという取り組みは年々欧州から世界に拡がり、1995年の国際会議を皮切りに国際ネットワークを形成し、毎年の国際会議開催などの活動を展開します。
▼日本での活動
日本ではロウム博士らの論文の佐藤訳「ヒアリング・ヴォイシズ」が『臨床心理学研究』に掲載され(1993)、1996年に佐藤が岡山県でヒアリング・ヴォイシズ研究会(※)を立ち上げ、声の体験者と精神保健福祉関係者や家族等と話し合いました。
(※ヒアリング・ヴォイシズ研究会の連絡先は
mbodaiju@mx1.kcv.ne.jp 〒719-0111 岡山県浅口市金光町大谷301-1 福祉会菩提樹)
この年はオランダのヒアリング・ヴォイシズ研究者、心理学博士B・エンシンクさん来日の機会に、大阪・東京・岡山で連続講演会が開催され、声の体験者を含む計420余名の参加者を得ました。
この新しい考え方は、驚きと何か安心するような気持と熱心さで学習され始めます。
岡山の研究会は、定例会の開催・ニュースレター発行・事務局づくり・会員制等を定め、関連の学会などを舞台に、講演・シンポジウム・ワークショップなどの活動を展開します。
定例会が大阪・東京・京都等でも開かれるようになり、会員も一時200人を越えました。
現在は約90人の会員と家族、関係者らで、隔月に例会を開いて語り合っています。
コロナウイルス感染症の世界的蔓延の2000年以降は、東京グループのZOOM例会に岡山他各地のメンバーがオンラインで参加し、これが全国的交流を促進してきました。
▼全国集会
2024年9月14~15日、日本初の「ヒアリング・ヴォイシズ全国集会」が岡山市で開かれ、対面とオンラインで約60人が全国から、1人が英国から参加し、基調報告、28年間の活動報告、6人の体験報告、面接法のワークショップなどが行われました。
▼体験者の語りから
ある体験者は、声による苦しみと孤立感から、薬物処方で小康を保って就職しながらも自らを二流市民とみる意識にとらわれていたのが、ヒアリング・ヴォイシズに出会って、「自分は声が聞こえるふつうの市民だ」というアイデンティティーを得て、大きな生きる力となったことを語ります。
他の人は、声などの困る体験が生じたときに、すぐ話し合える人が周囲にいることが薬の働きをするという「人薬」の大切さを強調しました。
▼活動の推進
欧州の先駆者達は、この取り組みの成果について、多くの本を出版してきましたが、2009年に出された『Living with Voices』は、従来の疾病概念から解放された基本理念・方法の深い解説と50人のリカバリー物語が一体となった力強いガイドとなっています。
この本は翻訳書『声とともに生きる豊かな人生」(佐藤和喜雄監訳・森直作訳、2022年 解放出版社・発行)としてヒアリング・ヴォイシズ推進に大きな力となっています。
声に苦しむ多くの方達にヒアリング・ヴォイシズのメッセージが確実に伝わるよう、医師をはじめ関係者の積極的な関心とご協力をいただきたいと切に願っています。