特集1 躁状態・軽躁状態 “いわゆるテンションが高い感じ”の違い(210号)


特集1
躁状態・軽躁状態
“いわゆるテンションが高い感じ”の違い
(209
号)
○「こころの元気+2024年8月号より
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筆者
鈴木映二
東北医科薬科大学医学部 精神科学教室
NPO法人 日本双極性障害団体連合会(ノーチラス会)

 


病気ではなく“いわゆるテンションが高い感じ”の人は、精力的に仕事や遊びをし、あまり睡眠をとらなくても疲れなく、ものをポジティブに捉え、自分に自信を持っています。

このような方は、仕事上で敵を作ることが少なくないものの、おおむね他人に迷惑をかけず、社会生活に支障はなく、当然医療の対象にはなりません。
それどころか、時には生産的で社会に有用な人物と評価されることもあるでしょう。

一方、双極症あるいは統合失調感情障害や脳に何らかの障害があったり、身体に内科的疾患があったり、薬などの影響で引き起こされる病気としての躁状態・軽躁状態のときには、さまざまなデメリットをもたらし “いわゆるテンションが高い感じ”ではすまされないことがあり、病気と評価されます。

その違いの前に、躁状態と軽躁状態の違いを説明します。

 

躁状態と軽躁状態の違い

一言でいえば躁状態は軽躁状態よりはげしいものです。

躁状態

たとえば躁状態では自尊心が非常に大きくなり「自分は会社で一番才能がある」と感じ、誰にでも命令したり、行き過ぎたまとまりのない行動をとり、給料の何倍もの買物を短時間にしてしまったりします。
時には幻聴や妄想を伴ったり、他人に攻撃的になり、取り返しのつかない行動をしてしまったりします。

軽躁状態

一方、軽躁状態のときには自信満々になるものの、ある程度の自制は可能で、行動は少しやりすぎでも、まったく生産的でないかというとそうでもなかったり、買物もある程度は理由があり金銭的にも数万円程度であったりします。

そのため病気の症状であることが明らかな躁状態に対して、軽躁状態は“いわゆるテンションが高い感じ”と区別することが困難なことも珍しくありません。

 

軽躁状態に気づくには

日本うつ病学会のホームページで公表されている「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために(第10版)」によると、軽躁状態に気づくには以下のようなことがあてはまらないか、ふり返ることをお勧めしています。

たとえば、
・睡眠時間が短くてもがんばれた
・よいアイデアが次々浮かぶ
・仕事がバリバリできる
・自信を持って話すことができる
・でも、何だかイライラして腹が立つことがある
…といったものです。

このような軽躁状態の症状は、その時点だけを見ても、それが症状なのか“いわゆるテンションが高い感じ”なのかは区別がつきません。

変化や根拠

大切なのは、それらが時間的にどのように変化しているのかを見ることです。

つまり、それらが続いた後に、何もしたくない、気分もひどく落ちこむというような「うつ病エピソード」が起きるようなら、双極症と診断される可能性があります(人によっては、うつ病エピソードの後に軽躁状態が起きることもある)。

また、うれしいことがあってハイテンションになることは誰にでもありますが、根拠なくそれが起きているようであれば、軽躁状態の可能性があります。

躁とうつの混合状態

双極症の躁状態・軽躁状態には、うつ病の症状が混じることがあります(この状態を「混合状態」と呼ぶことがある)。

Benazzi Fという方が、うつ状態の混在した躁状態の症状として見られやすいものを観察し(以下日本語は著者訳)、
『頻度の高い順に注意散漫、競い合い混雑した思考(医学的には観念奔逸という)、過敏な気分、精神運動興奮、饒舌、危険な行動の増加が現れやすく、目標指向性活動の増加、睡眠欲求の減少、自尊心の増加、気分の高揚などはほとんどみられない(※)』としています。

(※資料:Progr. Neuro-Psychopharmacol Biol Psychiatry 29 267 2005)

混合状態では、いろんなことがやりたくてやりたくて仕方ないのに体が動かなかったり、落ちこんでいたり、気持ちと体が一致しなかったり、気持ちの中でも、躁・軽躁とうつの両方が現れたりします。

このような状態は“いわゆるテンションが高い感じ”では現れないと思われます。

 

躁・軽躁状態と治療

躁状態・軽躁状態の最中では、本人はそれが「自分の本来の状態である」と錯覚しているか、あるいは「おかしい」という自覚があっても、自信満々であることが心地よいために積極的に治療を受けたがらない傾向があります。

ただし、躁状態は比較的薬が効きやすく、適切に治療を受ければ大きな問題に至らないですみます

そのために、本人が落ち着いている時期に、「こういう状態になったら早めに病院に行って相談する」ということを前もって話し合っておくとよいでしょう。

 


○「こころの元気+2024年8月号より
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