特集2
剤形と服用の仕方(192号)
著者:香取牧子
(つばさクリニック/ACT-Aile 薬剤師/精神保健福祉士)
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剤形(薬の形)と特徴
薬は、効果や服用のしやすさなどを考えて、いろいろな形で作られています。
薬の形は「剤形(ざいけい)」といいます。
精神科で使われる薬(向精神薬)の剤形には、内服薬(のみ薬)のほかに、舌下錠や貼り薬、注射剤などもあります。
向精神薬の剤形の特徴について説明します。
▼内服薬(のみ薬)
●錠剤・カプセル剤
一般的な薬の剤形です。
苦みやにおいのある薬物はコーティングしてあり、のみやすくなっています。
病状などにより量を調整しやすいです。
●口腔内崩壊錠(こうくうないほうかいじょう)
舌に乗せるとふわっととけて、水なしでのめる剤形です。
薬の名前の最後にODやDとつくものが多いです。
水分制限をしている方やのむ力が弱くなっている方でも使うことができます。
例としてレンドルミンDやジプレキサザイディスなどがあります。
薬によっては苦みを感じることがあります。
●徐放剤(じょほうざい)
体の中で、ゆっくり薬物が放出されるように作られている剤形です。
そのため、1日1回の服用でも体内での血中濃度が安定し、副作用が少なくなることが期待できます。
薬の名前の最後にLやRやSRなどがつくものが多いです。
噛み砕いたりすると血中濃度が急に上がることがあるため、そのままのみましょう。
例としてイフェクサーSRやインヴェガなどがあります。
その他、液剤や散剤(粉薬)などは、粒がのめない方にのみやすい剤形です。
▼舌下錠(ぜっかじょう)
舌の下に入れて口の粘膜から成分を吸収させる剤形です。
舌下錠は口の粘膜から直接吸収されるため、初回通過効果を受けません。
初回通過効果とは、体に入って胃や腸から吸収された薬が、血液に入る前に肝臓などで分解されることをいいます。
内服薬は、初回通過効果を受けて効果が弱まってしまうのですが、舌下錠はそれがありません。
そのため効果も速く、胃腸に障害のある方でも使えます。
例:向精神薬ではシクレストが舌下錠になります。
舌の下に入れるのがむずかしかったり、味が気になる方もいます。
のみこんでしまうと効果が得られないので、のみこまないようにしましょう。(⇨特集1参照)
▼貼り薬
湿布のように貼れる剤形です。
貼るだけなので簡単で、食事に関係なく使えます。
副作用が出た場合、はがすことで薬を止められます。
また皮膚から直接吸収されるため、初回通過効果(胃や腸から吸収された薬が、血液に入る前に肝臓などで分解されること)を受けません。
例:向精神薬ではロナセンテープがあります。
皮膚からの吸収に時間がかかるため、急な効果は期待できません。
かぶれなどの皮膚障害にも注意が必要です。
貼る場所によって薬の吸収量が変わってきますので、必ず指定された場所に貼るようにしましょう。
▼注射剤
精神科では筋肉注射の場合がほとんどで、速い効果が期待できます。
口から食べられない方やのみこみの悪い方にも使えます。
●持効性注射剤
LAIとかデポ剤ともいわれ、1回の注射(筋肉注射)で2~4週間効果が持続する剤形です。
薬をのんだか忘れてしまう心配がなく、また血中濃度が安定することで、副作用が少なくなることが期待できます。
例:リスパダールコンスタやエビリファイなどがあり、12週間持続するゼプリオンTRIという薬も発売されています。
持効性注射剤は一度体内に入るとすぐに抜けないため、副作用が出ないか、効果はあるかなどを、事前にしっかり確認することが必要です。
剤形による服用時間
錠剤やカプセル剤は、効果を期待する時間に合わせてのむことができ(睡眠薬なら寝る前など)、のみ方を調整しやすい剤形です。
徐放剤は多くの場合1日1回ですが、インヴェガの場合は朝服用となっています。
これは、朝排便する方が多いため、排便後に服用して体に長く留まるように、という意図があります。
1日1回の薬は同じ理由で朝服用が多いのですが、イフェクサーSRなど眠気が出やすい薬は、夜に服用する場合もあります。
薬は食後にのむことが多いと思いますが、ロナセン、セロクエル、インヴェガ、ルーランは食後にのむと特に効果が期待できる薬です。
舌下剤や貼り薬、注射剤は、直接血中に入るので、食事に影響されない剤形です。
精神科の薬は、同じ成分の薬でも違う剤形のものがあります。
使いやすい、継続しやすいという観点で〝剤形から選ぶ”という考え方も、精神科領域では重要です。