「こころの元気+」2008年3月号より →「こころの元気+」とは
ストレスへの対処方法を身につける
舳松克代
田園調布学園大学人間福祉学部人間福祉学科
ストレスはよくないもの?
「現代社会は個人にかかるストレスが多く、それによりうつ病をはじめとした精神疾患に罹患し休職、退職する人が増えている」と最近よく耳にします。
そのほかにも私たちは日常的に「ストレス性」「ストレス発散」「ストレスになる」など〝ストレス?なる言葉をさまざまな場面で使っています。そのどれもがネガティブな意味をこめて使われていることが多いのではないでしょうか。ずいぶん〝ストレス?という言葉はきらわれたものであると感じます。
「ストレス=よくないもの」という図式が多くの人に方程式として刷り込まれてしまっているわけです。果たして本当にストレスは悪いものなのでしょうか?
ストレスは外と内にある
ストレスは「外界の刺激によって引き起こされるもの」と、「自生的に湧くもの」に分けられます。
つまり、仕事をしていて、上司から怒られればストレスがかかります。これは対人関係の中で他者から受けるストレスといえるでしょう。
その後、「自分ってつくづくダメだな」と自己評価をすることは自分の中で自分自身に低い自己評価のレッテルを貼るという意味で自生的に湧くストレスということがいえます。
ストレスは外からと内からの両方からかかるものなのです。
ストレスは生きていれば誰にでも起こりうることで、誰とも会わず外出もせずに引きこもっていてもストレスはかかるということがいえます。
ストレス=悪いものという図式を発想の転換をし、ストレス=自己を成長させるものと捉えなおしてみるといろいろなことが見えてきます。
人はストレスを受けたときにそれをどうしたらよいだろうか? どう乗り越えるか、対処するかを考えるわけです。この過程が苦しくとも、もっとも人間を成長させるものだと私自身は感じています。
ストレスのない生活、それは無菌状態で、免疫力はつかず、耐性力が養われず、まったく前進のない生活です。ストレスが悪いものと考えることよりも、ストレスをどう乗り越え、対処していこうかと考えることがもっとも人間の成長には大切であると考えます。
自分を知ること
ではそのストレスをどう乗り越えてゆくか、成長力をつけるにはどうしたらよいかというお話に進みましょう。先にも記したように、ストレスには外からかかるストレスと内から湧くストレスの二つがあります。
まずは、自分がどんなストレスに弱いかを知ることから始めましょう。私はうつ病にかかり休職をしている人たちの支援をしています。いろいろお話を聞くと会社内でのいじめがあって、対人関係がうまくいかないことをきっかけにうつ状態になった人もいれば、役職が上がって給与も増えたのにうつ状態になってしまった人もいます。
理由はさまざまですが、その人にとってはとても苦しい状況であることがわかります。前者は「外からかかるストレス」といえますし、後者は「内から湧くストレス」と考えられます。
皆さんはどちらのストレスに弱いでしょうか?
ストレスに強くなる話
さてストレスに強くなる話に移りましょう。
外からかかるストレスから考えてみます。対人関係を代表として外界との交流で発生するストレスは、多様な経験を積むことで免疫力を上げることができます。前に経験したことのある場面であれば、どうすればよいかわかるからです。
しかし、人が成長していく上で同じ場面ばかりが繰り返されることはありません。複雑できびしい対人関係環境にいてもうつ状態にならずに生活している人たちを観察してみると、相談できる人や愚痴をこぼせる人がまわりにいることが多いです。こんなときどうしたら良いかな? こんなことあったんだよといえる人です。困ってからつくるのではなく、日ごろからそういう人材を自分のまわりに構築しておくことが大切なのです。さて、あなたには何人そういう人がいるでしょうか?転ばぬ先の杖、このような自分の支援をしてくれる人のネットワークを日ごろからつくることを心がけましょう。
そのためには欲するだけでなく常日ごろの対人関係が、ギブアンドテイクで友好なものでなくてはいけません。人付き合いがうまくいかない、苦手という人のために、私たちは「社会生活技能訓練(SST)」という技法を活用してトレーニングを行ったりしています。
次に、内から自分自身にかけてしまうストレスを考えてみます。「私はだめだな」「何もできない人間だな」「人からきらわれているんだよな」といつも自分に悪い評価を与えて落ち込んでしまう人。こういう人は「物事が悲観的に見えるメガネ」をかけている人たちです。天気の日もこのようなメガネをかけていると曇りか雨に見えます。とても損な人ですね。
このようなことをしてしまう人は、物事を悪い面とよい面の両方を見るトレーニングを日ごろから心がけてみてください。私たちに起こっているさまざまな事実は見方によってよくも悪くも解釈することができます。両方の側面を見て、私たちはバランスをとっているのです。
悪い面ばかりを見てしまうと気分も落ち込みます。逆に、いい面ばかりを見ているとと軽率で失敗が多くなり、他者から受け入れられない行動が増加します。
私はこのような人には認知療法の認知再構成法という技法をおすすめしています。厳密には手順があるのですが、一言で記すのはむずかしいので、詳細は専門書を読んでいただきたいと思いますが。簡単にできるのは、よい予測と悪い予測の両方を出してみて、それを合成して中立の予測を立ててみるという方法をとると簡単です。
たとえば、家でごろごろしているとき、「自分は社会に役に立っていないな」と考えたとします。これは悪い予測ですから、両極の「世の中には役に立っている人ばかりではないな」とも考えてみるわけです。これをくっつけて自分で唱えてみます。
「自分は社会に役に立っていないかもしれないけど、世の中には役に立っている人ばかりではないな」と声に出してみましょう。少し心が軽くなったりしませんか?
これを繰り返し練習してゆくと自然と両方の考えが出てくるようになります。ぜひ試してみてください。
ストレスに自身で対処できるようになれば、自分の成長を実感できるのでは?